2014年1月14日火曜日

中国:13億人の民主国家誕生は日本には最悪のシナリオ、島国日本が生き残るために

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●宮家氏の講演に熱心に耳を傾ける参加者


JB Press 2014.01.14(火)  JBpress
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39620

日本の対中戦略の答えは「島国同盟」にあり日本の保守は「進化せよ」
でなければ国の将来は危うい~宮家邦彦氏講演

 去る12月12日、JBpressプレミアム会員および無料会員を対象とした、第1回の「JBpressコラムニストを囲む会」が行われた(会員制プレミアムサービスについてはこちらから)。

 今回のゲストはJBpress草創期から連載を続けていただいている、人気コラムニストの宮家邦彦さん。少人数制の特別セミナーとあって、講演から質疑応答まで非常に密度の濃い会となった。
 ここでは、2時間半にわたったセミナー内容の一部をご紹介する。


●JBpressで「中国株式会社の研究」を連載する宮家邦彦氏。コメンテーターとしても活躍中

■中国の発展は海のルートと不可分、だから海軍を増強する

 中国という国は歴史的に見て、膨張と縮小を繰り返してきました。

 かつて中国の脅威は基本的に北から来たため、万里の長城が造られた。
 その後、中国の脅威は変わり、8世紀後半の唐の時代は中原から中央アジアに抜ける回廊が、ウイグルとチベットによって挟撃されました。

 これは現在に通じる中国の安全保障関係地図のプロトタイプだと思います。
 私はいつもこの原点に戻るようにしています。

 その後、再び漢族が力を持ち始めましたが、ウイグルやタタール、チベットがあり、漢族は中央アジアには行けなかった。
 こういう状態が長く続き、清の時代を経て、ほぼ現在の中国が出来上がりました。

 つまり、漢族の歴史というのは、基本的に東西南北の国との力関係で出来上がっている。
 現在の北の脅威はロシアですが、中露関係はそこそこいい。

 チベット、ウイグル、内モンゴルは押さえた。
 インドとベトナムとの間には領土問題を抱えていますが、戦争をしない状態ということになると、実は陸の国境は安定しているんです。

 中国がいまなぜ海軍を増強しているのかというと、脅威が海から来るからです。
 そして中国が一番守りたい、最も豊かで、脆弱な部分が太平洋側にある。
 エネルギーも資源も海にある。
 モノを輸出するのも海からです。

 中国の発展と海のルートは不可分です。
 だからこそいま中国は陸軍を減らして海軍を増強しているのです。

■13億人の民主国家の誕生は日本にとって最悪のシナリオ

 中国の将来について、7つのシナリオを考えてみました。
 まず3つの可能性があります。
(1).民主化する、
(2).独裁の強化、
(3).ロシアのように民主化するが失敗する、
です。

 そして、それぞれに2つの可能性を加えます。
(A).統一する、
(B).分裂する、
です。
 これで3×2の6通りのシナリオとなります。
7番目は「全部グチャグチャになる」というシナリオです。

 日本にとって最悪のシナリオは、
 中国が13億人を統一し、完全な民主国家の超大国が誕生する
というものです。
 そうなれば台湾は新生中国に吸収され、朝鮮半島もおそらく中国の影響下で統一されるでしょう。
 そして米軍がいる意味がなくなります。

 米軍がいなくなり、中国が民主主義国家となれば、日本はマージナル、あってもなくてもよい存在になります。
 ただし、このシナリオの可能性は極めて低いと思います。
 まず民主化はしないでしょうし、
 されたら日本にとって困ることになる。

 ほかのシナリオの可能性ですが、独裁強化の可能性は低い。
 また、もし分裂して完全に民主化する、つまり欧州型ですが、これも難しいと思います。

 また、分裂して、すべてが独裁になるということになると、中東と同じです。あるいは、分裂して民主化したり独裁化したりすると、いまのアフリカのようになります。

■島国が生き残るためのヒントはどこにあるか

 いずれのケースにしろ、日本は中国にどう対応したらいいのか。
 答えは、「島国同盟」です。

 欧州の地図をひっくり返して見ると、イギリスと日本は非常に似ていることが分かります。
 大陸の沖に小さな島国がある。
 人口はそこそこの規模で、国民の知性は高いけれど、資源がない。

 そこで、島国が生き残る方法としては、3つ条件があります。

①.第1は、大陸での勢力均衡を図る(覇権国家の出現を阻止)。
 これはイギリスの対欧州戦略です。

②.第2は、大陸との安全な距離を取る(過度な介入を回避)。
 イギリスも100年戦争して、何も得るものがなかった。
 日本も何度か大陸に出ていって、いいことは一つもなかった。これが歴史の教訓です。

③.第3は、シーレーンの維持(自由貿易の維持)。
 これはイギリスのやり方で、日本のやり方でもありました。
 かつての日英同盟では日本はイギリスの助力を得て、ユーラシア大陸における覇権国家、すなわちロシアの台頭を防いだ。

 そして大陸と健全な距離を置きながら、イギリス海軍を使って日本のシーレーンを確保した。
 これは日本が近代史で最も成功した同盟です。

 日本は戦後、再び島国同盟を結びました。
 日米同盟です。
 アメリカというのは世界一の島国です。
 大陸国家ではありません。

 そのアメリカの助力を得て、日本は大陸との健全な関係を確立し、第7艦隊を使って中東までのシーレーンを確保しました。
 この島国同盟に日本の生きる道があると思います。

■日本が中央アジアでの発言力を強化すべき理由

 軍隊が撤退すると平和になるというのは、私に言わせればウソです。
 軍隊が撤退したら危険が増します。
 米軍が撤退したアフガニスタン、もしくはイラクに平和は来ません。

 平和というのは、1つの力が存在し、ほかの力が手を出せない状態のことです。
 軍隊が退いて力の真空ができれば、それを誰かが埋める。
 例えば、米軍は2014年末までにアフガニスタンから撤退します。
 その時に何が起きるか。

 過去に事例があります。
 1988年、ソ連軍が撤退し、力の真空ができた結果、アルカイダやタリバンというイスラム原理主義勢力がやって来ました。
 同じことが今後イラクとアフガニスタンで起きるでしょう。

 それがアフガニスタンだけでは済まなくて、タジキスタンやキルギスに飛び火するようなことになれば、それは即ウイグル問題に発展します。
 その時の中国当局の慌てようはいまから想像できます。

 ですから、日本政府は中央アジアの勉強をしっかりして、援助のやり方を変えるべきです。
 中国は中央アジアについてものすごく勉強しています。
 日本にはそういう視点がまったくない。

 尖閣問題でやり返すんだったら、タジキスタンで日本の発言力を高めて、もしウイグルでテロなどが活発化し始めた時に影響力を及ぼす。
 そういう形で中国に圧力をかける。
 つまり中国との外交というのは、決して日中間だけのことではないのです。

■日本の保守主義勢力がやらねばならないこと

 先ほど中国の7つのシナリオについてお話ししましたが、
 中国が出すべき答えの一部は日本が知っています。

 日本の近代化の歴史自体が、中国にとって参考になる。
 伝統文化と西洋文化をうまく融合したのが日本社会ですから、中国がマネることができると思います。

 しかし残念ながら、いまの中国は普遍的価値を受け入れません。
 それを受け入れるよう日本は言うべきです。

 ただ問題は、日本が普遍的価値について言うのであれば、日本の保守主義も普遍的価値を受け入れなければなりません。
 私も保守主義者ですが、日本の保守の意見はきちんと英語、仏語、中国語など外国語に翻訳されて、外国人が理解できるものでないといけない。

 従軍慰安婦の問題も靖国の問題もすべてそうです。
 そうでなければ、ただの独りよがりの極論、もしくは排外主義です。

 本当の保守主義を望むのであれば、進化する必要がある。
 普遍的な価値で説明でき、外国人もなるほどなと理解しなければ、その保守主義は死にます。

 中国がどのような形であれ変化し、東アジアで新しい秩序ができた時こそ、日本がリーダーシップを取ることのできる唯一のチャンスです。

 その時までに日本の保守主義が進化して、周辺国に理解されるものになっていれば日本の将来は明るく、必ず生き延びると思います。
 逆にそれができない場合は、大きな波に飲み込まれてしまうでしょう。



JB Press 2014.01.14(火)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39647

日中対話の道を閉ざしてはいけない本気で心配する2014年の日中関係

 2012年の秋、尖閣諸島(中国語名:釣魚島)の領有権を巡って日中両国の対立が激化し、それを受けて中国の主要都市で大規模な反日デモが発生した。
 中国の若者たちは日本製品のボイコットを呼びかけ、その結果、日本の自動車メーカーの売り上げは大きく落ち込んだ。

 それから約1年が経ち、日中双方の努力で日本企業の中国での売り上げはデモ以前の水準に回復しつつある。
 同時に、日本に足を運ばなくなった中国人観光客も徐々に戻ってきている。

 日中関係は歴史認識の問題や領土領海の領有権の問題で大きく揺るがされているが、個人の付き合いというレベルでは違った様相を見せる。
 基本的に個々の日本人と中国人は、こうした大きな問題に左右されることなく、いつも通りの付き合いを続けている。
 国家レベルの問題と個別の人づきあいは無関係と思っている人が多いのだろう。

 しかし、マスコミは歴史認識や領土領海の問題をまるで顕微鏡で覗いたかのように拡大させる。
 そのため、双方で国民感情として相手国に対する義憤がどんどん積もり重なっていく。

■平和裏な南京占領ではなかったことは事実

 この40年間の日中関係を振り返ると、歴史認識の相違がいつも障害になっている。
 日本と前向きな関係を築いていこうと考える中国人はもちろんいる。
 また、日本でも中国でも高齢化が急速に進展し、現役世代のほとんどは過去の戦争を知らない。
 しかし、戦争を知らないからといって戦争の歴史を忘れるとは限らない。

 筆者はたまたま中国の南京で生まれた。
 日中の歴史において南京は特別な意味を持つ場所である。

 国民党時代の首都は南京だった。
 日本軍は首都南京に侵攻して占領したとき、たくさんの中国軍捕虜と市民を殺害した。
 いわゆる「南京大虐殺」と呼ばれる南京事件である。

 南京大虐殺記念館の壁には、日本軍による虐殺の犠牲者が「30万人」と書かれている。
 当時、内陸から避難してきた避難民は、ほとんどが戸籍を管理されていなかった。
 のため、30万人という犠牲者の数は正確なものではなく、言ってみればシンボリックな数字である。
 今になって犠牲者の人数に関する論争を展開しても何の意味もない。

 ただ犠牲者の数を問わず間違いなく事実として言えるのは、日本軍は南京を平和裏に占領したのではない、ということである。

 1960年代、アメリカがベトナム戦争に参加したときの口実は、南ベトナム人を「救う」ため、というものだった。
 しかし、その「救い」の行為によって、たくさんのベトナム人が殺害された。
 ノーム・チョムスキーのように「虐殺」だったと断じる者もいる。
 とりわけ、米軍が枯葉剤を大量に散布した行為は、ベトナム人を救うためのものとは言い難い。
 その悪影響は今も残っている。

 ベトナム戦争の「口実」と同様に、一部の日本人歴史学者は、日中戦争は中国を白人の支配から解放するためのものだったと主張する。
 だが、実際に戦場で行われたことは、中国人を解放するための行為だったとは認められない(その史実は当時の日本と海外の新聞報道からも垣間見ることができる)。

 日本の一部の政治家と評論家は、日中関係の悪化は中国共産党の愛国・反日教育のせいであると主張する。
 確かに中国では、愛国・反日教育が行われている。
 筆者が小学校と中学校教育を受けた1970年代にも、すでにそれはあった。

 無論、中国の歴史教科書に偽りがあることも事実である。
 例えば、抗日戦争に最も貢献したのは共産党の八路軍と新四軍だと書かれているが、実際は八路軍と新四軍の勢力は弱小で、前線で大きな勝利を収めたのは国民党軍だった。
 朝鮮戦争の歴史に関する記述も間違っている。
 中国の歴史教科書では、朝鮮戦争を引き起こしたのは南(韓国)だと記されている。
 だが、実際は北が南を侵略したのである。

 中国の歴史教育の中に、このような史実の間違いや反日教育は確かに存在する。
 だが日本軍によって多くの中国人が犠牲になったことは事実であり、中国人には日本軍の恐怖が植え付けられている。

■靖国参拝は賢明な行動とは言えない

 歴史を振り返るときに、史実の正しい把握はもちろん重要である。
 だが同時に忘れてはならないのが戦争の被害者に対する配慮であろう。
 安倍晋三首相は戦争被害者への配慮をもっと払うべきではないだろうか。

 2013年の暮れ、安倍首相は靖国神社に参拝した。
 なぜ突然参拝したのか多くの人は理解不能だったに違いない。

 安倍首相は、靖国参拝は個人的な信条に基づくものであり、外国政府にとやかく言われる筋合いはないと語っているようだ。
 日本の首相が自国の神社に参拝することは、確かに国際法にも国内法にも抵触しない。
 法によって禁止・制限されていない言動は法によって守られるはずである。

 しかし、その「正論」が国際社会で通用するとは限らない。
 靖国神社に太平洋戦争の戦犯が合祀されていることは周知の事実である。
 合祀に至った政治的な経緯は日本人でも知らない人が多い。
 靖国神社の特殊な成り立ち、神道の思想と併せて、外国人にそれらを理解してもらうのは容易なことではない。

 また日本国内では、戦犯を裁いた東京裁判の公平性に異議を唱える論調がある。
 確かに東京裁判はアメリカが主導したものであり、日本にとって100%公平だったとは言えない。
 日本が国内法で戦犯を裁かなかったのも問題だった。
 だが、だからと言って戦争の責任を否定してもよい理由にはならない。
 また東京裁判の否定は戦後の国際社会の枠組みを覆すことにもつながる。

 もしも安倍首相の靖国参拝に何か意味があったとすれば、それは薄くなりつつあった両国民の戦争に関する記憶を呼び起こしたことだろう。
 戦争を体験した者はいなくなりつつあるが、若者同士の敵対を誘発する言動は、政治指導者として決して賢明とは言えない。

 終戦から70年以上経過した。
 今からでも遅くはない。日中両国はそろそろ戦争の負の遺産を処理して、それに蓋をする時期に来ている。
 安倍首相の使命はこれに貢献することであろう。

 ギリシャの歴史家、ツキディデスは、ペロポネソス戦争の歴史を総括したときに、
 「人間性が不変であることから、将来、類似したことが起こる」
と警鐘を鳴らしたという(E・ハミルトン)。

 安倍首相は現役の総理大臣として中国を公式訪問しない初めてのケースになる。
 筆者はこれからの日中関係を真剣に心配している。
  ツキディデスの予言が当たらないように祈るばかりである。

柯 隆 Ka Ryu
富士通総研 経済研究所主席研究員。中国南京市生まれ。1986年南京金陵科技大学卒業。92年愛知大学法経学部卒業、94年名古屋大学大学院経済学研究科修士課程修了。長銀総合研究所を経て富士通総研経済研究所の主任研究員に。主な著書に『中国の不良債権問題』など。



 
【劣化する人心と国土】


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