2014年1月23日木曜日

南シナ海「中国"海洋版"識別圏」(3):中国は魚に対して防空識別圏(ADIZ)を設定した

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JB Press 2014.01.23(木)  The Economist
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39748

南シナ海:中国の高圧的な領海宣言
(英エコノミスト誌 2014年1月18日号)

中国は魚に対して防空識別圏(ADIZ)を設定した

 どうやら魚さえも、中国の領有権主張から免れないようだ。
 今年1月1日、中国最南端の省である海南省政府の新規制が発効し、海南省の管轄下にある海域で魚を捕るすべての船は中国当局から許可を得ることが義務付けられた。

 中国は他国も領有権を主張している南シナ海の一部に対する領有権を主張していることから、新規制は極めて挑発的に見える。
 挑発は実際には中国の意図するところではないかもしれないが、近隣諸国はとても安心していられない。

■中国の意図は挑発か漁業規制の強化?

 南シナ海の沿岸国で中国と最も激しい領有権紛争を抱えているフィリピンとベトナムは、海南省の新規制をすぐに非難した。
 米国は、この規制は「潜在的に危険」だと言った。

 日本の防衛相はこの規制を、昨年11月に日本の施政下にある尖閣諸島(中国名:釣魚島)を含む東シナ海の一部空域に防空識別圏(ADIZ)を設定するという中国による突然の発表と比較し、中国は「一方的に既存の国際秩序を脅かしている」と述べた。

 中国側はそれを否定し、この規制には何ら目新しいものは含まれていないと言う。
 承認申請を義務付ける論争を呼んだルールは、1986年に制定された漁業法に含まれており、1993年に海南省の省法に取り込まれた。
 規制の公布は、法律上のちょっとした整理に過ぎないと中国政府は示唆している。

 南シナ海問題の専門家であるマサチューセッツ工科大学(MIT)のテイラー・フラベル氏はオンライン雑誌「ザ・ディプロマット」への寄稿で、この規制の主目的は実際に、中国の主権の主張を強めることではなく 
 「大規模な水産業を抱える島である海南省として漁業規制を強化することにある」
ように見えると書いている。

 フラベル氏はさらに、この規制は騒動を引き起こした条項に加え、水産資源の保護や、魚の種類ごとに捕獲してもいい最低限の体長(ロブスターなら18センチ)などの問題も網羅していると指摘している。

 しかし、中国は、自国が領有権の主張について曖昧であると同時に非妥協的である時に、南シナ海に影響を及ぼす規制に対する外国の批判に対して不平不満を述べることは到底できないはずだ。

 説明されていない「九段線」(地図参照)は、中国が事実上南シナ海全域、もしくは、南シナ海に点在する島嶼とその近海に対する主権を主張するために用いられている。

 それとは別に、海南省はもう少し狭い200万平方キロ(南シナ海全域はおよそ350万平方キロ)の海域に対する管轄権を持つと中国は主張している。

 台湾の領有権主張も九段線に基づいている。
 ブルネイ、マレーシア、フィリピン、ベトナムは、それぞれ異なる島嶼に対する中国の主権に異議を申し立てている。

 1月19日、ベトナムは初めて、中国によるパラセル(西沙)諸島併合を阻止しようとして失敗し、旧南ベトナム海軍の海兵数十人が溺死した1974年の戦いの記念行事を行った。

 かくも多くの横断的な論争と、かくも大きな相互不信が渦巻くなか、技術的、あるいは法律的な問題が反発を招くのは避けられない。
 ベトナムは、ベトナムが自国領海と見なす海域への中国漁船の侵入を2013年に516件確認したと述べている。
 2012年と比べ223件増加したことになる。

■中国の国際的責任の履行にも疑問

 新規制は、中国による国際的責任の履行についても疑問を投げかける。
 中国は2002年に東南アジア諸国連合(ASEAN)と、南シナ海における紛争防止のための行動規範に関する「行動宣言」で合意した。
 その後、中国は実際の行動規範の交渉を引き延ばしている。

 だが、行動宣言の下でさえ、当事国は「紛争を複雑化させたりエスカレートさせたりするような活動の遂行にあたって自制する」ことになっている。
 しかし、2012年に海南省が発表した規制――治安当局者に対し、領海内の外国船に乗り込み、乗船者を退去させたり拘束したりする権限を与えた――と同じように、今回の新規制は行動宣言の精神に反しているように思える。

 また中国は、「海洋法に関する国際連合条約(UNCLOS)」の原則も軽視している。
 九段線と海南省の200万平方キロの領有権主張は、それぞれの国の海岸線と所有する島に基づき各国に領海と排他的経済水域(EEZ)を認めるUNCLOSの下では説明がつかない。新規制が対象としている海域の大部分は、他国が国際水域と見なしている場所にあり、その海はますます荒れてきている。

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英エコノミスト誌の記事は、JBプレスがライセンス契約 に基づき翻訳したものです。
英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。



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