2014年2月25日火曜日

中国企業のブランド力はなぜ強くならないのか:世界第2位でも構造的な弱点がある中国経済

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JB Press 2014.02.25(火)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39979

中国企業のブランド力はなぜ強くならないのか世界第2位でも構造的な弱点がある中国経済


 中国経済は2010年に日本を追い抜いて世界第2位の規模になった。わずか30年前、「改革開放」初期、中国は依然として世界極貧国の1つだった。
 わずか30年でここまで成長したのは奇跡としか言いようがない。
 どのようにして中国経済は急成長を成し遂げたのだろうか。

■中国経済は飛躍的に成長したが・・・

 「改革開放」政策前の毛沢東時代、中国経済の基本モデルは旧ソ連の経済運営を踏襲したものだった。
 ただし最近の研究では、毛沢東時代の経済運営は厳密には旧ソ連型の計画経済ではなかったと言われている(中国清華大学秦暉教授)。

 確かに毛沢東時代の経済運営は、きちんとした経済計画を立ててそれを忠実に実行していたわけではなかった。
 建国から毛沢東死去までの27年間、指導部では毛沢東に対する個人崇拝を確立するために、毎年のように権力闘争が繰り広げられ、経済計画の作成はおろそかになり、その実行もいい加減だった。

 「改革開放」政策以降の三十余年、政治運営の中心は権力闘争から経済建設に移行した。
 1980年代の10年間、市場経済の建設は党の基本方針としてまだ確立していなかった。
 だが、経済計画の策定と実行はそれ以前に比べていくらか真面目に行われるようになった。
 このことは中国経済の発展に大きく寄与したと思われる。

 1992年に政府・共産党は市場経済の建設を確認し、一層の経済の自由化を推し進めた。
 主に市場における価格形成に対する政府の関与が減少し、企業の仕入れ、生産と販売が、企業自身の責任で行われるようになった。
 市場経済の建設と経済の自由化が中国経済の飛躍的な発展に貢献したのは確かなことであろう。

 しかし、中国経済が世界第2位の規模を誇るようになっても、「メイド・イン・チャイナ」のブランド力は確立していない。
 アメリカのインターブランド社が発表した2013年のブランド価値ランキング・トップ100社に中国企業は1社も入っていない。
 この現実をどのように説明すればよいのだろうか。

■企業のブランド力を生み出すもの

 そもそも企業にとってブランド力とはどのようなものなのだろうか。

 一般的にブランド力は、消費者の認知度、ブランドイメージ、競争力、他のブランドとの差別化といったファクターから総合的に評価される。
 ブランド価値を、当該企業の時価総額から純資産(簿価)を控除した無形資産として測定する方法もある。

 企業のブランド力はどのようにして創られるのだろうか。

 言うまでもないことだが、いかなる企業でも強いブランド力を培うためには、
 まず、優れた商品やサービスを提供する必要がある。

 競争相手との差別化を図るために、他社の追随を許さない一流の技術を開発することが重要である。
 実際の市場競争では、企業は優れた技術力を保持するために、特許を申請するなど種々の対策を講ずることがある。

 そして優れた技術に裏付けられた商品、サービスを中核に、ブランドイメージを高めていく施策が必要となる。
 消費者の認知度を高め、企業のブランドイメージを改善するためには、「研究・開発」だけでは不十分である。

 企業のブランドイメージには、商品の性能(使い勝手の良さ)、利便性、デザイン、ファッション性、話題性、アフターサービス、ステータス、バリュー、カルチャーなど種々の要素が含まれている。
 かつての物不足、供給不足の時代においては、商品の性能と利便性がより重視されていたが、今は供給過剰の時代である。
 消費者は商品の性能や利便性を追求するだけでなく、デザインやステータスなどをより強く求めるようになっている。

■中国の大企業は独占型の国有企業ばかり

 1990年代半ば、当時の江沢民国家主席はフォーチュン500に中国企業が1社も入っていないことを問題視し、大国に相応しい、フォーチュン500に入る大企業を育てようと号令したことがある。

 フォーチュン500は企業の時価総額によって計算されるが、江沢民国家主席の号令を受けて、中国では、国有大企業の吸収・合併(M&A)が推し進められた。
 例えば、石油化学企業は長江を境に2つの巨大グループ企業が作られた。
 こうして中国で巨大企業集団が次々と生まれることになった。

 ちなみに、現在、中央政府に帰属する大型国有企業は130社あまりある。
 2013年版のフォーチュン500にランクインされている中国企業(含む香港企業)は89社あり、世界で2番目の数である。

 このような江沢民時代の企業改革は「強強連合」と称され、巨大企業が次々に生まれたが、ブランド力がある「強い企業」が生まれたわけではなかった。

 フォーチュン500は企業の総資産によって集計されるが、もしも収益性(利益率)で計算すれば、多くの中国企業はランクインできなかったはずである。
 例えば、2013年版のフォーチュン500において、
 4位の中国石油化学集団の資産総額は4282億ドルだったのに対して、利益はわずか82億ドルだった。
 一方、同じ石油業界で3位のエクソンモービル社は、総資産が4499億ドルだったのに対して、利益は449億ドルだった。

 なぜ中国企業のブランド力が高まらないのだろうか。
 なぜ中国企業は巨額の資産を抱えているのに利益が生まれないのだろうか。

 まず、フォーチュン500にランクインされている中国企業を見ると、そのほとんどは石油や電力といった独占型の国有企業である。
 これまでの三十余年間、中国経済は飛躍的な成長を遂げたが、中国企業の技術力は強化されていない。
 ハイテク製品の輸出は6割以上が外資系企業に頼っている。
 「中国発の技術」は作り出されていないのである。

 この背景には、以下のような複雑な事情がある。

★.第1に、中国では知的財産権が十分に保護されていない。
 そのため、企業の基礎研究に取り組むインセンティヴが十分に働かない。

★.第2に、国有企業の場合、政府によって保護されているため、研究・開発に取り組まなくても独占的な利益が生まれる。

★.第3に、地場企業にとって自らが研究・開発に取り組むよりも外国企業から技術をコピーしたほうが利益につながりやすい。

 こうした理由によって、中国企業は規模こそ拡大しているが利益率が上昇せず、ブランド力も備わっていない。

■習近平政権に立ちはだかる共産党の既得権益

 中国企業がブランド力を確立できない原因は、
 突き詰めて言えばその技術力の弱さ
であろう。

 30年以上、続いてきた中国経済の発展モデルは、廉価な労働力を生かした輸出製造業を中心とする外向型発展モデルだった。
 しかし、人民元の切り上げと人件費の上昇を受けて、従来の発展モデルは行き詰まるようになりつつある。
 中国経済が成長を持続するには、技術力の強化と内需に依存する成長モデルへの転換が必要である。
 このような構造転換ができなければ、
中国は中所得国のワナに嵌まってしまう恐れがある。

 中国の1人当たりGDPは7000ドル程度であり、まさに“中所得”国である。
 中国の労働力供給はピークアウトしつつあり、労働契約法の施行(2007年)をきっかけに、人件費を中心とする労働コストは急速に上昇している。

 本来ならば、企業は人件費の上昇を受けて労働集約型産業からの脱皮を図り、研究・開発の強化に向けて努力をするはずである。
 だが、政府が国有企業を保護しているため、経営者のマインドに大きな変化は見られない。

 習近平政権になってから、市場メカニズムが機能できるように経済制度改革と構造転換に取り組む姿勢を強めている。
 その問題意識は正しいが、目的を達成するには、まず大型国有企業による市場独占を打破することが不可欠であろう。

 その際、習近平政権に立ちはだかるのは、共産党の既得権益である。
 中国が無事に中所得国のワナから抜け出せるかどうかは、依然として不透明である。

Premium Information

柯 隆 Ka Ryu
富士通総研 経済研究所主席研究員。中国南京市生まれ。1986年南京金陵科技大学卒業。92年愛知大学法経学部卒業、94年名古屋大学大学院経済学研究科修士課程修了。長銀総合研究所を経て富士通総研経済研究所の主任研究員に。主な著書に『中国の不良債権問題』など。






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