2014年2月3日月曜日

中国の覇権主義行動:尖閣対応と南シナ海支配、長期作戦と力の論理

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JB Press 2014.02.03(月)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39808

長期不敗態勢の確立を!

[1]: 初めに

 中国による昨年末のADIZ(Air Defense Identification Zone=防空識別圏)の設定や南シナ海海域における拿捕をも可能とする漁業規則の施行等を見るにつけ、その傍若無人ぶりに驚かされる。

 日本はそれに対応すべく行動を開始したばかりであるが、間に合うのか、そして最終的に
 我が国の安全・安心は全うされるのか
 危惧の念を抱かざるを得ない。

 本稿はそのような懸念をいかにして払拭するかについての述べたものである。
 激しい、厳しい表現もあり、感情的になっているとの批判もあるかもしれないが、筆者の思いの深さゆえと寛恕願えれば幸甚である。

 これまでJBpressにも多数の投稿してきたが、それらの集大成的意味合いもある。

[2]: 最近の中国の覇権主義行動概要

 最近の中国の東アジにおける覇権主義的行動は目に余るものがある。
 その概要は以下の通りである。

(1)尖閣諸島

ア)= 尖閣諸島は核心的利益と明言

 従来台湾、チベットおよび新疆の独立問題など、いかなる代償を払っても譲歩しない、武力行使をも辞さないという意味に用いる常套句「核心的利益」なる文言を東シナ海・尖閣諸島に対して使うようになったのは2010年10月以降である。

 この時は東シナ海を国家領土保全上の核心的利益と規定しただけであったが、2012年1月には人民日報が尖閣諸島を核心的利益と表現した。

 中国政府や党は、尖閣諸島に対しては核心的利益との文言の使用を慎重に扱っていた。
 2012年5月の野田佳彦首相との会談時には「核心的利益と重大な懸案事項」と表現し、同年12月には中国政府高官が「核心的利益」と言明したとされる。

 そして、ついに2013年4月26日、中国外務省報道官が定例記者会見で尖閣諸島を核心的利益と明言し、同年8月には日本の超党派国会議員団との会談で、核心的利益と明言した。
 日本に対して明言したのはこれが初めてである。

イ)= 防空識別圏の設定と無人機の飛行

 中国は、2013年11月23日、突如尖閣諸島を含む東シナ海の上空広い範囲に、防空識別圏(ADIZ)を設定すると発表した。
 飛行計画の事前提出の義務化、識別や指示に従わない場合に「防御的緊急措置」を取ると明示した。
 中国はこのADIZを自国領空外側の緩衝地帯としてではなく、領空そのものと認識して対応しているものと考えられる。

 これより前、中国は、9月9日無人機と見られる航空機を尖閣諸島周辺公海上に飛行させ、我が航空自衛隊は緊急発進した事案もあり、我が国防空上の懸念が増大した。

ウ)= 実効支配を狙った態勢確立など

 中国初の空母「遼寧」を就航させ南・東シナ海海域に睨みを利かせ、対米作戦の布石を打った。
 我が国の海上保安庁に相当する国家海警局を発足させ、所謂公船を尖閣諸島接続水域や我が国領海に出没させ、我が海上保安庁を奔命に疲れさせている。

(2)南シナ海の実効支配拡充

 南シナ海も東シナ海同様波高い。否、関係国の海軍力が弱小なため、東シナ海よりも状況は切迫していると言えよう。

 南沙諸島(スプラトリー諸島)は7カ国が、西沙諸島(パラセール諸島)では3カ国が領有権を主張している。
 南シナ海における関係国の紛議は、時に軍事力の発動につながり、中国がパラセール諸島を実効支配し、スプラトリー諸島の一部をも占拠した。

 かかる事態に対処すべく東南アジア諸国連合(ASEAN)は団結し、中国との間で2002年行動宣言を採択した。
 この行動宣言により一時的小康状態はあったものの、2007年頃から海底資源や漁業資源の獲得競争の激化や民族主義の高揚もあり、南シナ海の紛議が従前よりも深刻になってきた。

 特に中国による領有権主張が強硬になってきた。
 中国による外国漁船の拿捕が頻発し、米海軍の音響観測艦の妨害行動、他国の艦船と長期にわたり対峙し、傍若無人な中国監視船により他国の監視船が追い払われ、さらには海底ケーブルが切断される事態も起きた。
 資源開発にかかる動きも急だ。

 さらに、2012年6月にはこれら係争島嶼を管轄する「三沙市」を設置し、500トン級の監視船を常駐させることとした。

 ASEANと中国は、南シナ海行動規範策定への協議を2013年9月に行ったが、実質的な進展はなかった。
 中国は、交渉の姿勢を示しつつも行動規範策定を引き延ばし、その間に実効支配を強化する狙いがあると見積られている。

 そして、本年1月11日の報道によれば、それを裏づけるような中国の動きがあった。
 中国海南省政府が管轄している南シナ海海域で、外国漁船に操業許可申請を義務付ける漁業規則を1月1日から施行したのである。

 この動きは、11月の東シナ海における防空識別圏設定と連動した動きであると考えられる。

(3)軍事力の増強特に海洋行動能力、宇宙開発、サイバー戦力など

 中国は、宇宙の軍事利用やサイバー戦能力の向上に資源を投入し、非物理的手段である「三戦」と呼ばれる「輿論(よろん)戦」、「心理戦」および「法律戦」を軍の政治工作の項目に加える等、多様化した軍事任務を完遂できる能力の向上を図っている。

 ちなみに国防費、公表国防費の名目上の規模は、過去10年間で約4倍、過去25年間で33倍以上の規模となっており、今やその規模は、米国に次ぐ第2位となっている。

 核・通常戦力面でも、能力向上は目覚ましい。
 航空戦力では、防空能力向上のため高性能対空ミサイルを導入し、空中給油や早期警戒管制能力をも向上させている。

 海上戦力では空母“遼寧”を就航させ、パワープロジェクション能力も格段に向上させた。
 海洋活動の活発化は凄まじいとしか形容のしようがない。

 この戦力整備は中国の核心的利益を防衛するために、来援する米軍の進攻阻止を狙いとしたA2/AD戦略の具現化にほかならない。

(4)宣伝攻勢と韓国の取り込み

 中国は、その遠大な夢「偉大な中華帝国の再興」を達成すべく、あらゆる術策を利用している。
 時には札束をちらつかせ、経済と引き換えに自国陣営に引き込み、欧米の主要マスメディアに対しては自国の主張をなりふり構わずに掲載させるなどである。

 アフリカ外交の活発化、駐在大使による直ちの反論の掲載などを行っているが、日本は後手後手に回っているとしか思えない。
 もっとも安倍晋三政権の誕生によって、幾分かは挽回しつつあるようだが、それでも劣勢との印象は拭えない。

 対立する陣営に楔を打ち込むのは、支那大陸四千年の歴史の中で繰り返された常套手段であるが、その矛先が韓国に向いている。
 朴槿恵(パククネ)韓国大統領は、完全に中国に取り込まれたのではないかとすら感じる。
 杞憂であればいいが・・・。

[3]: 中国の行動の特色

 以上、概観した中国の行動の特色をまとめれば以下のようになるのだろう。

(1)力の論理

 支那四千年の歴史から得られた教訓は「力こそ正義」との信念である。
 恫喝や挑発、示威行動やあらゆる口実を設けての既成事実化など、何でもあれの総合商社の感がする。
 尖閣水域への度重なる航行や領海侵犯、海自艦艇への射撃管制レーダー照射など枚挙に暇がないくらいだ。

 小生は中国の歴史小説を愛読書としているが、歴史小説の場面かと見紛うかと思うばかりだ。
 このような、力の信奉者に正義・道義・王道の精神は通じないだろう。

 しょせん自由と民主主義を基調とする国際社会と、中国の伝統的な思考は相容れない。
 権謀術数を旨とし、力こそ正義とのDNAは脈々と流れていると理解すべきだ。
 彼らの思考を変えさせることは無理かもしれない。
 その努力の必要性を認めるに吝(やぶさ)かではないが、備えは怠ってはならない。

(2)長期作戦

 さすがに長い歴史を有する国は違うと思うのが、すぐに結果を求めず、時間をかけてじっくりと、目標を達成することを厭わないということだ。
 日本人が考える長期戦よりも、さらに長いスパンで物事を考え処置するお国柄である。
 そして、目的達成のためには、一時的には大胆な妥協をも術策としては採用すること当然であるとの論理だ。

(3)利用可能なすべてを動員する総合戦略

 戦略とは本来総合的なものであり、それをわざわざ総合戦略などと総合との語彙を冠する必要はないのだが、それをするのは日本人の思考の幅の狭さの故だろう。
 農耕民族の特性だろうか?

 その点、中国は目的達成のためには利用可能なあらゆる手段・方法を駆使する。
 ダーティと言われようが目的を達成できればいいのだ。
 それくらいの割り切りがある。
 時にはハニートラップのような策を弄することもなきにしもあらずだ。

(4)分断作戦

 対立する陣営の切り崩し、自陣営への取込に成功すれば、一石二鳥だ。
 日・米・韓の同盟の輪を分断することは、そういう意味でも重要な戦略であり、狙うは最も弱いリングであり絆だ。

 最近の韓国の中国への傾斜ぶりは異常だ。
 中国の策に完全に乗ぜられており、悲しむべき事態だ。
 まさか、中・韓同盟関係には至らないであろうが、早く目を醒ましてほしいものである。
 余計なお世話に言われるかもしれないが・・・。

[4]: 我が国民性・気質と対応上の問題

 以上のような中国に、果たして日本は対応できるのであろうか?

 どうも、日本人には国際政治場裡で生き抜くための重要な要素が欠けているような気がする。
 取り越し苦労であればいいが。

(1)長期作戦への耐性欠如

 日本に欠けているもの、その第1は長期作戦への耐性の欠如ではなかろうか?

 精神的に耐えられないのではないかと危惧する。
 特に先の大戦後、自ら努力せずとも、長きに亘り平和を享受し、安穏として、厳しい試練に晒された経験がない。
 明治も遠くなりにけりだろう。

(2)総合性の欠如

 我々は総合的な視点で、物事を計画し推進するということが不得手である。
 あらゆる状況を想定し、条件を整えて、狩りをする民族と日本のように農耕を主とする民族の差か、王朝の興亡を繰り返した血腥い歴史的な体験の差異かは不明である。
 いずれにしろ、総合的・有機的・計画的な目的達成方策に習熟しているか否かの差は大きいような気がする。

(3)正義は勝つという夢想の呪縛

 日本は聖徳太子の唱えた「和をもって尊しとなす」の精神の充溢しているお国柄である。
 少なくとも対個人の関係においてはそれを是としたとしても、生き馬の目を抜く国際政治においてそれが果たして通用するか。

 弱肉強食、権謀術数渦巻く国際政治において、独ソ不可侵条約の締結を受けて、平沼騏一郎首相が「欧州情勢は複雑怪奇」という名言を残し総辞職した轍を、また踏む可能性はないのか?

 日本は東洋のスイスたれを真に受けて、理想主義、夢想主義に捉われてきたのが日本ではなかったのか?

 話し合えば分かり合えるという単純な情緒から脱却すべきである。

[5]: 長期不敗(必勝)態勢確立

 中国の覇権主義に基づく行動にいかに対応するかの戦略を確立すべきである。
 まずもって、対中戦は長期持久戦であるという認識を持たねばならない。
 ここ両3年以内に中国は破綻するとの予測もあるが、そのような願望に頼るのではなく、自らの対策により我が国の平和と安全、そして発展を期すべきだ。
 その処方箋の一端を簡潔に提示したい。

(1)国力の総合一体化

 昨年末に設置されたいわゆる日本版NSC(National Security Council=国家安全保障会議)と新たに策定された安保戦略、防衛大綱、中期防の着実かつ速やかなる実行が不可欠だ。

 これらに対しても、防衛費の伸びが不十分である、グレーゾーンへの対処が不明確、集団的自衛権の解釈変更が先延ばしである、テロ対策が不十分である等々、また防衛以外の分野の施策が明確でないなど等の不満はあるが、それらは今後改善されるであろうと期待したいし、されねばならない。

 自衛力増強、国民意識の啓蒙、外国への周知宣伝、日米同盟のさらなる強化,ODA大綱の見直しなどを着実に進めてほしい。
 委細は小生の先の本サイトへ投稿した拙論(「NSCと新安保戦略、新大綱、中期防で日本を盤石に!」)を参照願いたい。

(2)一時的なダメージには耐えるべし

 中国との関係改善は望むものではあるが、そうは単純にいかないだろう。
 日中の経済面での相互依存度は極めて大であり、関係悪化により経済的なダメージを蒙ることもあろうが、そのリスク対策が必要である。
 対中経済関係では、カントリーリスクを考慮した企業戦略が必要であろう。

(3)多正面対処の基本は、一方面対処に限定化

 言うまでもなく、日本は地政学的に、3正面の脅威に直面している。
 多正面対処作戦の基本は、対処正面の限定化である。

 すなわち、全正面に同じように対応するのではなく、重要正面を選定し、他正面への対処は最小限にする必要があり、そのような戦略的思考が重要だ。
 北朝鮮のミサイルやテロへの対応も重要ではあるが、最大かつ喫緊の脅威正面は東シナ海正面である。

 重点正面以外は、戦略的和解や戦略的互恵関係により関係改善を図るべきであり、対露戦略外交を展開すべきである。
 北方領土という難しい問題があるが、双方知恵を出して解決してほしい。
 国家百年の大計を確立してもらいたい。 

(4)対中抑止網の確立

 対中包囲網というと、自ら積極的に中国に仕かけるというような悪いイメージがあるので、あえて言えば対中抑止網の形成という方が妥当だろう。
 安倍総理誕生後、地球儀俯瞰外交を積極的に進めており、その狙いが対中抑止にあることは自明だ。

 特に単独では中国に対処困難なASEANへの積極的な協力は肝要だ。
 JBpress掲載の拙論「動き始めた中国包囲網を確固たるものにせよ」を参照願いたい。
 インドや豪州も要だ。

[6]: 終わりに

 今なさねば、いずれ臍(ほぞ)を噛むということが起きるような気がする。
 そのような危機感故に激した表現となっている面があるが、筆者の思いの丈を御賢察いただければ幸いである。

 山下 輝男 Teruo Yamashita 元陸将
1969年3月、防衛大学校機械工学科卒業、陸上自衛隊入隊。中部方面総監部防衛部長、第2師団司令部幕僚長、第一師団司令部副師団長兼ねて練馬駐屯地司令(陸将補)、富士学校副校長などを経て、2001年に第5師団長(陸将)。2004年3月、陸上自衛隊を退官。また、NPO法人パトロールランナーズ顧問、NPO法人平和と安全ネットワーク・理事、日本戦略研究フォーラム・政策提言委員、NPO法人NBCR対策推進機構・特別顧問、社団法人隊友会・参与なども兼務している。



レコードチャイナ 配信日時:2014年2月3日 17時24分
http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=82779&type=0

ミュンヘン安全保障会議で中国が「争いを棚上げにし共同で開発することを主張」―中国

 2014年2月3日、全国人民代表大会外事委員会の傅瑩(フー・イン)主任は今月1日にドイツで開かれた第50回ミュンヘン安全保障会議で、「グローバルパワーと地域安定」をテーマにしたフォーラムに出席した。

 傅瑩主任は
  「中国は平和な外部環境を必要とし、それを構築するために取り組んでいる。
 中国は包容力のある精神を唱導し、話し合いを通じて誤解を解き、経済・金融面の協力を推進し、地域と世界の安全と繁栄に貢献してきた。
 領土・領海をめぐる争いなど歴史的な残存問題については、争いを棚上げにし共同で開発することを主張し、緊張化と衝突に反対している」
と述べた。

 また日中関係について傅瑩主任は、
 「日中関係は現在非常に困難な時期にある。
 日本の指導者がこれまで伝えてきた情報は矛盾に満ちており、日本の歴史教育は失敗だと言える。
 政府が侵略の歴史に真摯に向き合いそれを切実に認めた上で、被害者である近隣諸国の国民と真の和解を達成することができなければ、日本はアジアの建設的な一員として成長できない」
と指摘しました。

(提供/新華網日本語版・翻訳/薛天依・編集/武藤)





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