『
jiji.com (2014/02/14-23:29)
http://www.jiji.com/jc/c?g=int&k=2014021400975
「南シナ海防空圏」に懸念=中国に緊張緩和促す-米長官
●14日、北京で会談するケリー米国務長官(左)と習近平中国国家主席(AFP=時事)
【北京時事】中国を訪問したケリー米国務長官は14日、習近平国家主席、王毅外相らとそれぞれ会談した。
ケリー氏は会談後の記者会見で、中国による南シナ海への防空識別圏設定の可能性に懸念を表明。
東シナ海での日中の対立や南シナ海での争いを念頭に、緊張緩和に向けた対応を取るよう中国側に働き掛けた。
昨年11月に東シナ海に防空識別圏を設定した中国は、南シナ海への設定の可能性を排除していない。
ケリー氏は「一方的な現状変更の試み」が地域の不安定化につながりかねないことに懸念を示し、行動の自制や透明性を求めた。
中国側によれば、王氏はこうした問題を交渉や協議を通じて解決する考えを示すとともに、
「国家主権を守り、領土を保全するわれわれの決心を誰も動揺させることはできない」
と述べ、中国の主権を尊重するよう米国に求めた。
また南シナ海の係争をめぐり国際社会の一部が意図的に緊張をあおっていると非難した。
北朝鮮核問題をめぐっても協議し、非核化の進展を北朝鮮に促すための方策について突っ込んだ話し合いを行った。
ケリー氏は「すべての手段を尽くすべきだ」と中国側に要請。
核問題をめぐる6カ国協議再開に向けて「北朝鮮は意味のある具体的な措置を取る必要がある」と語り、中国に対し北朝鮮への圧力を強めるよう呼び掛けた。
王氏は
「朝鮮半島で混乱や戦いが起きるのを決して許さない。
中国の姿勢は厳粛で真剣だ。言うだけではなく実行する」
と6カ国協議再開へ北朝鮮への働き掛けを強めていく考えを示した。
』
東シナ海防空識別圏を承認しておいて、南シナ海はいけない、というのは論が通らない。
アメリカがおかしくなり始めている、
ということなのだろう。
あまりアメリカを信頼しないほうがいい。
そこそこ冷静な目で見ることとし、大国アメリカにまどわされることなく、様々な国の一国とみたほうがいい。
いまのアメリカはこれまでアメリカとは異なってきてきる。
「異なった分」だけでも日本は自力でやって行かねばならなくなってきている。
『
AFP BBニュース 2014年02月14日 22:37 発信地:北京/中国
http://www.afpbb.com/articles/-/3008506
ケリー米国務長官が訪中、習主席らと会談
【2月14日 AFP】米国のジョン・ケリー(John Kerry)国務長官は14日、中国を訪問し、習近平(Xi Jinping)国家主席や王毅(Wang Yi)外相と相次いで会談した。
日中間で、第2次世界大戦の歴史と東シナ海(East China Sea)の尖閣諸島(Senkaku Islands、中国名:釣魚島、Diaoyu Islands)などをめぐり緊張が続き、二国間関係が近年で最も冷え込んでいる極めて重要な時期のケリー氏訪中となった。
また、北朝鮮問題も優先順位の高い議題となった。
米国は、挑発的な北朝鮮に対し非核化に向けた具体的措置を講じるよう促していく上で、中国の協力を求める狙いがあったとみられる。
王外相との会談に臨む際、ケリー氏は記者団に対し、習主席との会談について
「非常に建設的で、前向きなものだった。
北朝鮮関連の課題の一部については、踏み込んだ協議を行う機会が得られてうれしく思う」
と語った。
また王外相は、
「中米関係のあらゆる面に、非対立で非衝突、相互尊重と双方に有利な協力という原則を真に反映できるよう」、
米国と連携していく用意があると話した。
ケリー氏は先の訪問地である韓国・ソウル(Seoul)を出発する前に、日本が第三国に攻撃を受けた場合には米国が必ず介入するという日米安保条約が尖閣諸島にも適用されるという考えを改めて強調した
。一方で、論争の的となっている昨年末の安倍晋三(Shinzo Abe)首相の靖国神社(Yasukuni Shrine)参拝については踏み込んだ意見は避け、「過去に関するもっともな懸念がある」ことは承知しているが、「同時に、歴史ではなく今日に関わる、安全保障上重大かつ目前に差し迫った懸念もある」と指摘した。
(c)AFP/Jo Biddle
』
『
エコノミスト 2014.02.18(火) The Economist
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39956
アジアの地政学:「リバランス」に苦心する米国
(英エコノミスト誌 2014年2月15日号)
アジアの状況は米国の思うようには進んでいない。
ケリー米国務長官が訪中、習主席らと会談
米国のジョン・ケリー国務長官が2月12日、中国、韓国、インドネシア、アブダビ歴訪に向け米国を出発した。
バラク・オバマ大統領率いる米国政権はアジアを軽視しているとの批判を受け、米国政府関係者は当然のことながら、ケリー長官が北東アジア、東南アジアを訪れるのはこの1年で5度目となることを懸命に強調している。
アジア地域では特に、ケリー長官は中東和平交渉に気をとられ、オバマ大統領の第1期目に発表されたアジアへの「ピボット(旋回)」、あるいは「リバランス」をおざなりにしていると批判されている。
ケリー長官の飛行距離は増える一方だが、米国のアジア外交は順調とは言い難い。
新興大国の中国との関係は緊張をはらみ続けている。地域最大の同盟国である日本とも、複数の重要課題を巡って意見の食い違いがある。
地域的貿易協定を締結する努力も、設定した期限を何度も過ぎている。
アジアの一部外交筋は、中国が領有権争いで強硬な主張をするのは、米国が関与を弱めていると見られるせいだと非難する。
2013年10月に東南アジアで2度のサミットが開催された際、オバマ大統領は、米国政府機関が一部閉鎖に追い込まれたために、これらのサミットを欠席した。
これによって誤ったメッセージが伝わったというのが、彼らの言い分だ。
■日本と中国の狭間で
原因は何であれ、彼らの言う中国の強硬な主張の結果、米中が互いに望むと表明している広範な協力関係が阻害されている。
それどころか、ケリー長官のアジア歴訪には、地域の緊張の影が重くのしかかる。
とりわけ、日本と中国がともに尖閣諸島(中国名: 釣魚島)に海と空から目を光らせている中、両国の衝突が懸念される。
米国は、尖閣諸島の主権に関してどのような立場にも立たないとしながらも、尖閣諸島は日本の施政下にあり、そのため日米安全保障条約の適用対象となるとの見解を示している。
米国の高官は2月に入り、2013年11月に中国が一方的に防空識別圏(ADIZ)を設定したことを改めて批判した。
ADIZは東シナ海の一部に及び、尖閣諸島上空を含む。この高官は中国に対し、中国が台湾や東南アジア諸国4カ国と領有権を争っている南シナ海にもADIZを設定すれば、米軍部隊の配備を変更することもあり得ると警告している。
さらに、ダニエル・ラッセル国務次官補は、中国が1940年代から地図に引いている「九段線」についても非難した。
九段線は南シナ海のほぼ全域に及び、中国はこの範囲の領有権を主張している。
ラッセル次官補は、九段線は国連海洋法条約に基づいていないと指摘した。
(米国は中国と異なりこの条約を批准していないため、中国の当局者はこの発言を少々言い過ぎだと考えているかもしれない。
しかし中国は、海洋法条約に言及することで自らの主張を制限したくないと考えているようだ)
中国は米国の批判をはねつけている。
中国にすれば、米国による批判は、中国の主張に異議を唱える国々を励ますものだ。
フィリピンのベニグノ・アキノ大統領は2月に、中国による南シナ海の侵略に直面しても世界が消極的な態度を取り続けていることを、1930年代のナチス・ドイツによる領土拡張政策になぞらえた。中国はこれに激しい怒りを表明した。
フィリピンも米国と同盟関係にある。
ただし日本と異なり、フィリピンが中国(あるいは他国)と領有を争っている場所は同盟条約の対象にならないと米国は明言している。
中国の国営通信社、新華社も、米国は「問題を起こしてばかりの日本を甘やかし」続けていると非難している。
安倍晋三首相が2013年12月、戦争犯罪人が合祀されている靖国神社を参拝したことは、中国から見れば、安倍政権が過去の帝国主義を反省しておらず、かつての軍事的な栄光を取り戻そうとしている証拠となる。
さらに2月に入り、安倍首相が指名した日本放送協会(NHK)の経営委員が、1937年の日本軍兵士による「南京大虐殺」はでっち上げだと発言した。
■米国の悩み
米国にとっては、これらすべてが頭痛の種だ。
米国は日本に地域の安全保障を今以上に担ってほしいと考えている。
それゆえ、安倍首相が平和憲法の解釈を見直し、日本の軍事的自由度を高めたい意向を持っていることについては肯定的に評価している。
また沖縄では、問題の米軍航空基地を移転する往年の計画についても、米国は安倍首相の協力を必要としている。
しかし、米国は、過去の戦争を批判されても、それは「勝者の正義」だと片付ける日本の右派の傾向を嫌っている。
オバマ大統領は4月に、日本を(マレーシア、フィリピン、韓国とともに)訪れる。
訪日中には、米国として安倍首相の修正主義とどのように距離を置くべきかを探らねばならない。
だが、安倍首相に厳しい態度を取り過ぎると、日米の同盟関係に亀裂を入れる形になり、中国に外交上のカードを与えることになりかねない。
既に米国の東アジア戦略は日韓関係の悪化によってむしばまれている。
韓国は中国以上に日本による歴史の書き換えに神経質だ。
しかし、この地域の安全保障は、北朝鮮の核武装の脅威により常に――2月上旬には若干友好的な顔をのぞかせたものの――脅かされている。
実際、北朝鮮の体制の安定に関する懸念は高まっている。
対北朝鮮戦略で合意することは、米国、中国、日本、韓国すべての利益になる。
ところが、各国は互いに異議を唱えることに躍起になっているのが現状だ。
■「スロートラック」が続くのか?
オバマ政権はいまだに、アジア各国に対し、米国外交のアジアへの旋回に重要な意味があると納得させることに苦労している。
これまでのところ、この外交政策が残したものは、
★.太平洋地域における米国の運命について格調高く飾った言葉と、
★.政府高官の度重なる訪問と、
★.米軍部隊のある程度の配備変更と、
★.環太平洋経済連携協定(TPP)
だけだ。
ここ数カ月は、締結が近づいていると思われるTPPに力点が置かれている。
TPPは、米国、日本、ほか10カ国(中国は参加しない)から成る野心的な貿易協定で、
国際貿易の3分の1を担うことになる。
2013年中にTPPを締結するという目標は達成されず、交渉担当者たちは2月22日にシンガポールで再び合意を目指すことになっている。
オバマ政権のチームに「ファストトラック」権限があれば、議会で条項ごとの審議を経ることなく合意に至ることができる。
しかし、議会に、政府へのファストトラック権限付与を認めさせるのは難しそうだ。
大統領補佐官によれば、オバマ大統領はまだ努力する気だという。
「米国初の太平洋地域出身の大統領」に
本気でこの地域における指導的な役割を担う意思があることをいまだ確信していないアジアの多くの国は、どれほど懸命に努力するか見届けたい
と思っている。
© 2014 The Economist Newspaper Limited. All rights reserved.
英エコノミスト誌の記事は、JBプレスがライセンス契約 に基づき翻訳したものです。
英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。
Premium Information
』
エコノミスト 2014.02.18(火) The Economist
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39956
アジアの地政学:「リバランス」に苦心する米国
(英エコノミスト誌 2014年2月15日号)
アジアの状況は米国の思うようには進んでいない。
ケリー米国務長官が訪中、習主席らと会談
米国のジョン・ケリー国務長官が2月12日、中国、韓国、インドネシア、アブダビ歴訪に向け米国を出発した。
バラク・オバマ大統領率いる米国政権はアジアを軽視しているとの批判を受け、米国政府関係者は当然のことながら、ケリー長官が北東アジア、東南アジアを訪れるのはこの1年で5度目となることを懸命に強調している。
アジア地域では特に、ケリー長官は中東和平交渉に気をとられ、オバマ大統領の第1期目に発表されたアジアへの「ピボット(旋回)」、あるいは「リバランス」をおざなりにしていると批判されている。
ケリー長官の飛行距離は増える一方だが、米国のアジア外交は順調とは言い難い。
新興大国の中国との関係は緊張をはらみ続けている。地域最大の同盟国である日本とも、複数の重要課題を巡って意見の食い違いがある。
地域的貿易協定を締結する努力も、設定した期限を何度も過ぎている。
アジアの一部外交筋は、中国が領有権争いで強硬な主張をするのは、米国が関与を弱めていると見られるせいだと非難する。
2013年10月に東南アジアで2度のサミットが開催された際、オバマ大統領は、米国政府機関が一部閉鎖に追い込まれたために、これらのサミットを欠席した。
これによって誤ったメッセージが伝わったというのが、彼らの言い分だ。
■日本と中国の狭間で
原因は何であれ、彼らの言う中国の強硬な主張の結果、米中が互いに望むと表明している広範な協力関係が阻害されている。
それどころか、ケリー長官のアジア歴訪には、地域の緊張の影が重くのしかかる。
とりわけ、日本と中国がともに尖閣諸島(中国名: 釣魚島)に海と空から目を光らせている中、両国の衝突が懸念される。
米国は、尖閣諸島の主権に関してどのような立場にも立たないとしながらも、尖閣諸島は日本の施政下にあり、そのため日米安全保障条約の適用対象となるとの見解を示している。
米国の高官は2月に入り、2013年11月に中国が一方的に防空識別圏(ADIZ)を設定したことを改めて批判した。
ADIZは東シナ海の一部に及び、尖閣諸島上空を含む。この高官は中国に対し、中国が台湾や東南アジア諸国4カ国と領有権を争っている南シナ海にもADIZを設定すれば、米軍部隊の配備を変更することもあり得ると警告している。
さらに、ダニエル・ラッセル国務次官補は、中国が1940年代から地図に引いている「九段線」についても非難した。
九段線は南シナ海のほぼ全域に及び、中国はこの範囲の領有権を主張している。
ラッセル次官補は、九段線は国連海洋法条約に基づいていないと指摘した。
(米国は中国と異なりこの条約を批准していないため、中国の当局者はこの発言を少々言い過ぎだと考えているかもしれない。
しかし中国は、海洋法条約に言及することで自らの主張を制限したくないと考えているようだ)
中国は米国の批判をはねつけている。
中国にすれば、米国による批判は、中国の主張に異議を唱える国々を励ますものだ。
フィリピンのベニグノ・アキノ大統領は2月に、中国による南シナ海の侵略に直面しても世界が消極的な態度を取り続けていることを、1930年代のナチス・ドイツによる領土拡張政策になぞらえた。中国はこれに激しい怒りを表明した。
フィリピンも米国と同盟関係にある。
ただし日本と異なり、フィリピンが中国(あるいは他国)と領有を争っている場所は同盟条約の対象にならないと米国は明言している。
中国の国営通信社、新華社も、米国は「問題を起こしてばかりの日本を甘やかし」続けていると非難している。
安倍晋三首相が2013年12月、戦争犯罪人が合祀されている靖国神社を参拝したことは、中国から見れば、安倍政権が過去の帝国主義を反省しておらず、かつての軍事的な栄光を取り戻そうとしている証拠となる。
さらに2月に入り、安倍首相が指名した日本放送協会(NHK)の経営委員が、1937年の日本軍兵士による「南京大虐殺」はでっち上げだと発言した。
■米国の悩み
米国にとっては、これらすべてが頭痛の種だ。
米国は日本に地域の安全保障を今以上に担ってほしいと考えている。
それゆえ、安倍首相が平和憲法の解釈を見直し、日本の軍事的自由度を高めたい意向を持っていることについては肯定的に評価している。
また沖縄では、問題の米軍航空基地を移転する往年の計画についても、米国は安倍首相の協力を必要としている。
しかし、米国は、過去の戦争を批判されても、それは「勝者の正義」だと片付ける日本の右派の傾向を嫌っている。
オバマ大統領は4月に、日本を(マレーシア、フィリピン、韓国とともに)訪れる。
訪日中には、米国として安倍首相の修正主義とどのように距離を置くべきかを探らねばならない。
だが、安倍首相に厳しい態度を取り過ぎると、日米の同盟関係に亀裂を入れる形になり、中国に外交上のカードを与えることになりかねない。
既に米国の東アジア戦略は日韓関係の悪化によってむしばまれている。
韓国は中国以上に日本による歴史の書き換えに神経質だ。
しかし、この地域の安全保障は、北朝鮮の核武装の脅威により常に――2月上旬には若干友好的な顔をのぞかせたものの――脅かされている。
実際、北朝鮮の体制の安定に関する懸念は高まっている。
対北朝鮮戦略で合意することは、米国、中国、日本、韓国すべての利益になる。
ところが、各国は互いに異議を唱えることに躍起になっているのが現状だ。
■「スロートラック」が続くのか?
オバマ政権はいまだに、アジア各国に対し、米国外交のアジアへの旋回に重要な意味があると納得させることに苦労している。
これまでのところ、この外交政策が残したものは、
★.太平洋地域における米国の運命について格調高く飾った言葉と、
★.政府高官の度重なる訪問と、
★.米軍部隊のある程度の配備変更と、
★.環太平洋経済連携協定(TPP)
だけだ。
ここ数カ月は、締結が近づいていると思われるTPPに力点が置かれている。
TPPは、米国、日本、ほか10カ国(中国は参加しない)から成る野心的な貿易協定で、
国際貿易の3分の1を担うことになる。
2013年中にTPPを締結するという目標は達成されず、交渉担当者たちは2月22日にシンガポールで再び合意を目指すことになっている。
オバマ政権のチームに「ファストトラック」権限があれば、議会で条項ごとの審議を経ることなく合意に至ることができる。
しかし、議会に、政府へのファストトラック権限付与を認めさせるのは難しそうだ。
大統領補佐官によれば、オバマ大統領はまだ努力する気だという。
「米国初の太平洋地域出身の大統領」に
本気でこの地域における指導的な役割を担う意思があることをいまだ確信していないアジアの多くの国は、どれほど懸命に努力するか見届けたい
と思っている。
© 2014 The Economist Newspaper Limited. All rights reserved.
英エコノミスト誌の記事は、JBプレスがライセンス契約 に基づき翻訳したものです。
英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。
Premium Information
』
『
JB Press 2014.02.14(金)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39931
「日米安保条約はもはや賞味期限切れ」日高義樹氏に聞く
「いま備えるべき日本の安全保障」論
●米国は財政再建の一環として、国防費を毎年10%ずつ削減している〔AFPBB News〕
尖閣諸島領海への船舶侵入、防空識別圏の設定など、強まる中国の軍事攻勢に対して日本人の不安が高まっている。
いざという時の頼みの綱は日米安保条約だが、最近の米国政府の内向き姿勢が不安を助長している。
オバマ政権の中国への宥和的な態度も気がかりだ。
一体、アメリカは日米同盟をどうしようとしているのか――。
●日高義樹(ひだか・よしき)氏米国のハドソン研究所首席研究員。1935年愛知県生まれ。東京大学英文科卒、59年NHKに入局し、ワシントン支局長、アメリカ総局長を歴任。退職後、ハーバード大学客員教授・同大学諮問委員を経て現職。著書に『アメリカはいつまで日本を守るか』(徳間書店)など多数。
NHKワシントン支局長を務め、長く米国の外交・軍事戦略を取材し、ヘンリー・キッシンジャー氏など米国の政官界に幅広い人脈を持つ米ハドソン研究所首席研究員、日高義樹氏はこう明言する。
軍事予算を削減している米国は、日本を守る力も意欲も減退しているからだ。
「自国のことは自分でやってくれ」という態度。
しかも、国内総生産(GDP)が日本を上回った中国との関係を深めた方が経済的にも得策、という考え方が米国の政府、経済界に広がりつつある。
もちろん安保条約の手前、尖閣周辺で日中戦争が火を噴けば米国は助けに来るが、空海軍による「エア・シー・バトル(空と海からの戦闘)」だけで、尖閣に上陸したりはしない。
もし尖閣に中国の漁民や軍人が上陸したら、日本が自力で排除するしかないという。
「日本は憲法を改正し、核武装を含め自力の軍事力を持つ必要がある」という日高氏に、いま備えるべき日本の安全保障体制を聞いた。
**************************
井本:
アメリカは内向きになり、また中国との経済関係を密にして、日本との関係を薄めつつあると言われます。
内向きになるアメリカ、ドル体制維持のために中国選ぶ。
日高:
アメリカのオバマ政権はアジアのパートナーとして日本よりも中国を選んだと理解していいと思う。
日本より経済力の大きくなった中国を大事にするのは当然だという空気が今の米政財界にあります。
米国経済は短期的には立ち直ったけれど、累積財政赤字は依然として大きく、ドル体制を維持するには米国債を買ってもらうなど中国の経済力に頼らざるを得ない。
中国はすでに米国債の最大の保有国だが、今後も買い続けてもらう。
その見返りに中国が人民元をドルにペッグし、国際通貨として石油代金などの支払いに使うことを許す。
発表はされていないが、昨年6月にカリフォルニアで開かれたバラク・オバマ大統領と習近平・中国国家主席との会談で、そうした合意がなされたと私は推測しています。
ドル体制維持のために中国を選んだ。
しかも、イラクやアフガニスタンなど中東地域での軍事外交で疲弊したこともあって、米国は孤立主義に向かっています。
「遠いところで戦争するなんて、もうまっぴら。外国のことなんて知らないよ」。
最近の米国の世論調査を見ると、そうした声が過半数を占めています。
べトナム戦争の泥沼に嫌気がさして厭戦ムードが広がった1960年代後半以来の内向き志向ですね。
井本:
そこから、日米安保条約の意味合いが変わってきたと?
日高:
そう、安保条約の空洞化、安保は時代遅れになったということです。
歴史的に言うと、アメリカの安保条約締結の狙いは、まず日本をソ連に取られないようにすることだった。
1951年のサンフランシスコ条約調印時、日本を独立させたら、すぐに日本はソ連軍を駐留させるのではないか、という不信感があった。
また、日本は経済力と軍事力を回復すると、またぞろ中国に進出するかもしれない。
それを阻止しようとも思っていた。
井本:
日本を抑えるために平和憲法を制定させ、在日米軍基地を置く。
いわゆる「瓶のふた」論ですね。
日高:
もう1つ大きな狙いが日本の経済力の活用。
日本を下請けにして日本の安くて高品質の商品を購入、アメリカの商品も日本に買わせる。
財政が悪化してからは米国債を大量に買ってもらう。
しかし、日本経済の低成長化と中国経済の台頭で、こうした時代が終わりました。
軍事的にも従来は台湾有事、朝鮮半島有事という、起こり得る2つの戦争の後方基地として日本が必要だった。
しかし、今や台湾はミサイルを持ち、北朝鮮も核保有国だから、地上戦闘はあり得ない。
日米安保条約で台湾有事、朝鮮有事での軍事的意味合いが薄れたわけです。
井本:
安保条約は、米ソ冷戦時は対ソ連、共産体制への防波堤としての意味が大きかったですよね。
日高:
1971年のキッシンジャーの中国訪問は共産国家の中ソを分裂させて、中国を米国の味方につけるためでした。
当時の中国は経済のみならず軍事力も弱かった。
一方、日本は経済力がついたのだから、憲法を変えさせて日本の軍事力で極東の安定を保とうとも、米国は考えていた。
1990年代初頭のソ連崩壊以降も、その考えを持ち続けていました。
だけど、いくらアメリカが要請しても、日本は逃げまくってほとんど何もやらなかった。
そうこうしているうちに、中国の軍事力が強くなってしまった。
1970年代以降、日米安保は形骸化し時代遅れになりながらも、惰性で今日まで続いてきた、というのが実態ですよ。
■「極東では日本が自力でやれ」が米国政府の本音
井本:
でも、マスコミ報道を見ると、米政府高官やそのOBは今でも
「日米同盟は大事、日本を守る姿勢は変わらない」
と言っているようですが。
日高:
日米安保をメシのタネにしているアメリカ人の言葉を表面的に聞くから、そうなるんです。
客観的に見れば分かるように、財政悪化の中でいま米軍は縮小に向かっています。
①.まず国防費を毎年10%づつ削減する。
②.第2に2016年に在韓米軍を撤退させる計画です。
③.第3に、2015年9月以降に海兵隊を現在の4個師団から2個師団に半減させます。
艦艇も削減させる。
これは、米国が自国の防衛に専念していくということを意味します。
世界の地域防衛はその地域の同盟国に任せざるを得ない。
「極東では日本が自力でやれ」ということです。
井本:
しかし、最新鋭の戦闘爆機F22を沖縄にも巡回させる形で配備するなど、沖縄はじめ日本の基地の機能を強化しているように見えます。
日高:
中国に対抗するために必要な軍事力は保持するということです。
地域防衛をサボり続けた日本は頼りにならない。
そこへ中国が大きく台頭した。
ならば、中国と共存する道を探るという方向に変わったわけです。
米国はアジアを中国に独占させたくはない。
だから沖縄はじめ日本列島に米軍基地を置き、最新鋭の兵器を用意する。
中国に勝手な行動はさせないよ、ということです。
あくまでもアメリカの国益のための基地として日本が必要だというにすぎません。
だから、米国の方から日米安保条約を破棄するとは言ってこないでしょうね。
井本:
そうだとしても、結果的に米軍基地の存在が中国や北朝鮮の脅威を封ずる役割を果たすことになります。
日高:
しかし、尖閣防衛のために米国が戦うだろうか。
自分からは、まず戦争はしないでしょうね。
尖閣諸島を中国軍やそれを後ろ盾にした漁民が占領しても、米国は手出ししませんよ。
ただ万一、中国の駆逐艦が出てきて、日本の海上・航空自衛隊と戦闘になったら、安保条約に基づいて米空海軍は戦争に加わる。
米軍はそのシミュレーションも作っています。
でも、戦闘は海上とその上の空だけに限定しています。
尖閣諸島などでの陸上の戦争は考えていないし、中国の基地も攻撃しない。
日本の領土そのものを守るわけではないんです。
だから、沖縄の普天間にいる海兵隊も、実は今の米軍の防衛戦略としてはあまり必要ない。
日本は普天間の辺野古移転の話で大騒ぎしているけど、
アメリカ議会はもう沖縄から海兵隊を全部引き揚げろ、
と言っているくらいですよ。
■米国が恐れるのは、とばっちりで日中戦争に巻き込まれる事態
井本:
米国は日本と中国、韓国の間に緊張が高まっている点を憂慮し、もっと中韓と仲良くしてほしい、軋轢をなくしてほしいと言っています。
日高:
それはそうでしょう。
自分から戦う気はないと言っても、日本が乱を起こしたら、安保条約上、とばっちりを受けて日中の戦争に巻き込まれる。
そんな面倒はごめんだ、迷惑だということ。
日本のためを思って仲良くしろといっているわけではない。
井本:
中国がミサイルで日本を攻撃し、沖縄にある米軍基地を攻撃することもあり得るでしょう。
日高:
米国のシミュレーションでは、対中戦で米軍は圧倒的な優位に立ち、戦闘は10日間で終わります。
米軍基地を攻撃したら損するのは中国だから、中国はやらないだろうと思っていますよ。
井本:
それは日本にとってもいいのでは?
日高:
中国が戦闘をしかけずに尖閣を取った場合、米国は何もしませんよ。
海上でも中国船が日本の巡視船にぶつかってきた程度では動かない。
キッシンジャーは「中国はosmosis、じわじわと浸透するように相手の領土を奪っていくのが得意だ」と言っている。
シベリアも中国人が徐々に住み着いて人口が増え、気がついたら中国領になる。
そうした事態をロシアは恐れています。
井本:
沖縄でも中国人が浸透してきているようですが、米軍基地に手出しさえしなければ、米国は我関せず、の態度を取るわけですか。
日高:
そう、日本の領土に近づいた中国船や中国の軍隊は自分で追い返す努力をせよ、ということです。
以前の日米安保では「日本に軍事行動を起こさせない」が前提だった。
今は「日本が軍事行動を起こして戦争にならない限り、米軍は出ていかない」という形に変わったのです。
■対等の立場で守り合うのが本来の軍事同盟
井本:
日本は米国を守らないが、米国は日本を守る。
そのために日本に米軍基地を置くのを認めるという片務的な日米安保条約の賞味期限は切れた。
双務的な対等の安保条約に変える必要があると?
日高:
そうです。
本来、対等の立場で守り合うのが軍事同盟。
だから、同盟国が協力して敵に対処する集団的自衛権の行使など当然のことです。
自分は戦わないで、守ってくれと言っても他国は動きません。
まず国家は戦争するということを認める憲法にしなければ、米国民は相手にしませんよ。
井本:
安倍政権は憲法改正を目指しています。
集団的自衛権を行使できるようにしているのは、そのための第一歩ではないですか。
日高:
一歩ではあるが、逆立ちの一歩だと思うんですよ。
まず憲法を改正して、自衛隊も戦争するという前提にした組織に変えなければいけない。
軍事裁判とか反逆罪とか、戦う組織としての法律も整備して。それが世界の常識です。
それなしに集団的自衛権と言っても、国際社会では納得されませんね。
井本:
特定秘密保護法を成立させ、日本版NSC(国家安全保障会議)も成立させましたが。
日高:
それも憲法を改正しなければ小手先のことにしか見えません。
日本版NSCの事務方のトップである国家安全保障局長を元外務次官の谷内正太郎氏にした点を見ても、軍事を軽視し、外交に偏っている印象を受けます。
井本:
憲法改正には国会議員の3分の2の賛成が必要で、一朝一夕ではできません。
日高:
それは分かるけれど、本当に改正に向けてヤル気があるのかどうか、まだ不明ですね。
井本:
中国は南シナ海や東シナ海、西太平洋で勢力を伸ばしており、米国との軍事バランスが変えようとしています。
それにより日本を心理的に屈服させようとしている、という見方もあります。
■中国はそう簡単に東アジアを制覇できないが・・・
日高:
ただ、米国では
「そう簡単に中国は東アジアを制覇できない。中国周辺が安定していないからだ」
という見方も有力です。
井本:
不動産バブルの崩壊で中国経済がガタガタになるという見方ですか。
日高:
私のいるハドソン研究所では
「中国人は賢いから経済問題はうまく解決するだろう。
現に中国政府は成長率を抑えて、バブル崩壊を起こさないようにしている」
という声が強い。
そうした国内問題ではなく、中国を取り巻く周辺国の脅威があるのです。
★.インド洋ではインドが海軍力を増強しており、中国の中東からの石油輸入ルートを脅かす存在になりつつある。
インドはイランやアフガニスタン、イラクも味方につけ、中央アジアからインド洋にかけて中国の動きを封じ込めるだろう、と見られています。
★.ロシアやインドネシアも今後、中国の拡大阻止に動く。
米国が内向きになるにつれ、中国の周辺国も勢力を伸ばすわけで、
「実は中国は東シナ海や南シナ海で威張っている余裕なんてない」
とも見られています。
井本:
安倍晋三首相が就任以来、インドや東南アジア、ロシアとの外交を活発に進めているのも、対中牽制が1つの狙いです。
■日本は憲法を改正し、核武装を含め自力の軍事力を持て
日高:
でも、そんな外交より、まずは憲法改正、自力で守る姿勢を固めることの方が重要ですね。
中国はミサイルで攻めてくる可能性もあるので、米国頼みにせず抑止力として日本もミサイルを持つ。
そういう気概が必要ですよ。
井本:
核武装はどうですか。
日高:
そこまで考えていいと思いますね。
井本:
米国が嫌がっているんじゃないですか。
日高:
いや、キッシンジャーなんか「なぜ日本は核兵器を持たないんだ」って言っていますよ。
ただ核兵器を持つ国が増えると、安全保障戦略が複雑化して面倒だから、日本の核武装に反対するという声が根強いのも事実です。
井本:
米国には日本が核武装すると米国を攻撃するかもしれないという不安もあるようです。
広島、長崎への原爆投下の報復をされるのではないかと。
日高:
1つの解決策は英国方式でしょう。
英国の原潜の核ミサイルは米国から借りている。
日本も核ミサイルを米国から借りる仕組みにすれば、核兵器使用について米国がコントロールできますから。
井本省吾(いもと・しょうご)
1947年、東京生まれ。東京大学農学部卒、1970年日本経済新聞社入社、産業部、流通経済部、日経ビジネス編集部などを経て、1991年より編集委員。主に流通・サービス業、消費財産業を担当。2011年3月に日本経済新聞社を退社。現在は流通専門誌「チェーンストアエージ」にコラムを連載する一方、ブログ「鎌倉橋残日録――井本省吾のOB記者日誌」で政治、外交、歴史、文化などについて執筆中。
』