2014年2月20日木曜日

中国海軍の外洋パトロール、近隣諸国の反応は複雑:強化スピードは予想以上と米国が警告

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●中国海軍の近隣諸国を挑発するような外洋パトロールの航路


ウォールストリートジャーナル     2014年 2月 21日 12:12 JST
http://jp.wsj.com/article/SB10001424052702304775004579395892620043328.html?mod=WSJJP_hpp_MIDDLENexttoWhatsNewsThird

中国海軍の外洋パトロール、近隣諸国の反応は複雑

中国海軍艦隊の3週間にわたる東南アジア水域のパトロールは、他の東南アジア諸国政府から相反する反応を呼んでいる。
増大する中国の海軍力にどう対応するかをめぐって混乱していることが露呈した形だ。

これら東南アジア諸国の中には、
★.自国の主権のために中国に対して強硬姿勢をとる必要と、
★.手要な貿易相手国である中国の機嫌を損ねかねないとの懸念の間で、
板挟みになっている国もある。
一部の国の政府当局者の中には、中国の艦船が自国の領海近辺に近づいた事実はないと否定している向きすらあった。
中国政府がこれとは反対の航行事実を発表し、国営メディアもそれを報じているにもかかわらず、である。

安全保障問題専門家によれば、中国駆逐艦2隻と揚陸艦1隻は1月20日、中国南部を出航した。
潜水艦が1隻が護衛していた可能性もある。
中国の国営メディアはパトロールの模様を詳細に報道したが、その航路は中国海軍が過去に通った航路よりもずっと南方だった。

このように地理的に異例に広い水域となっていることから、パトロールの目的は、中国国防省が主張するような通常の訓練のための演習ではなかった、とアナリストたちはみている。
演習以上のもので、ますます拡張する中国海軍の行動範囲の誇示が狙いだったというのだ。

中国海軍の艦隊はまず、ベトナムと領有権を争っている西沙諸島をパトロールし、次いで南沙諸島南方のジェームス暗礁まで航行した。ここはマレーシア沖合約50マイルの南シナ海上にあり、中国とマレーシアが領有権を主張している。

中国艦隊はその後、中国自身の主張する自国水域を超えてインド洋に向かった。
そしてインドネシア南方水域で中国艦船による初めての演習を行った。
その後、北に引き返し、西太平洋上で実弾演習を行った。
そして2月11日、23日間にわたる航海を終えて中国に戻った。

中国の国防省は、航海の最中に実施しいた訓練は
「いかなる国あるいは地域を狙ったものではなく、地域的な情勢とは一切関係ない」と
述べ、
「中国には関係水域で航行の自由とその他の正当な権利がある」
と語った。

実際、中国艦隊の行動が国際法に抵触した兆候は一切ない。
シンガポールの東南アジア研究所(ISAS)の上級フェロー、イアン・ストーリー氏は
「中国は海上で軍事演習を実施する権利の枠内にあり、それは国際海峡の航行も含まれている」
と述べた。

米国は中国艦隊のパトロールについて具体的にコメントするのを控えている。
ただ2月5日、ダニエル・ラッセル国務次官補(東アジア・太平洋問題担当)は議会証言で、 「南シナ海での行動パターン」に懸念を表明し、
中国が「国際法とは相容れないやり方」で係争水域の自国管理を主張しようとしている
と批判した。

そして先週、米太平洋艦隊のジェームズ・ファネル情報部長(大佐)は、
中国の軍隊は日本との「短期的な激しい戦争」に備えるよう命じられていると述べた。
それは中国が東シナ海の係争諸島(尖閣諸島)を日本から奪取するのを想定している
という。

中国のミッションの意図が何であれ、中国艦隊のパトロールは、人民解放軍(海軍)の行動範囲が拡大していることと、中国の近隣諸国が直面するジレンマを浮き彫りにしている。

前出のストーリー氏は、中国の軍近代化は正当なプロセスだと考えるが、東南アジア諸国の政府はその影響ないし結末を懸念していると述べた。
ブルネイ、マレーシア、フィリピン、ベトナムは南シナ海上の領有権で中国と争っており、中国が軍事力を盾にして自国の主張を押しつけようとするのではないかと懸念している。

しかし同時に、東南アジア諸国の政府は、中国艦隊の航海について中国に公然と問い掛ける意欲をほとんどみせていない。
ベトナム政府はコメントの求めに応じず、西沙諸島のパトロールについて沈黙したままだ。
ただ、過去において同国はこうした活動を強く非難していた。
同様に、2013年3月、中国がジェームズ暗礁に艦隊を派遣した際、マレーシアがこれを公然と反対していた。

今回のケースでは、マレーシア当局者は当初、中国の艦隊について極めてあいまいだった。
同国のアマン外相は今月17日、「その水域で中国艦船の存在を確認していない」と語った。

しかし20日になってマレーシア国防軍トップのZulkifeli Mohammed Zin将軍は東マレーシア近くでの中国艦隊のプレゼンスを認めた。
同将軍は中国の船舶はこの水域を通過して航行する権利があると述べ、「彼らはジェームズ暗礁を通過したが、パトロールはしなかった」と語った。

マレーシアのヒシャムディン・フセイン国防相は、
われわれは中国のような大国に対する場合、自国の能力について現実的でなければならない
と述べた。

前出のストーリー氏は、マレーシアの軍部は沿岸水域の監視能力が十分にあるとし、したがって中国のパトロール艦船が近くにいたのを知っていたはずだと指摘。
マレーシア当局者が中国政府を動揺させるのを恐れて、公の議論を避けたいと願っていただけだとの見方を示唆した。

    By     TREFOR MOSS AND ROB TAYLOR



サーチナニュース 2014-02-20 16:37
http://news.searchina.net/id/1524684

米国専門家「中国海軍はソ連超えたが、いまも二大欠陥あり」

人民日報系のニュースサイト「環球網」は国外報道を引用して、米国の軍事専門家や同国の国防総省に、
「中国海軍の能力は冷戦時のソ連海軍を超えたが、現在も『二大欠陥』がある」
との見方があると報じた。
同記事は中国新聞社など、中国の複数のメディアが転載した。

★.中国海軍はソ連海軍にはなかった対艦ミサイルを保有していることが強みで、海上を移動する艦船への攻撃力が高い。
ただし、台湾問題を武力で解決できるほどの能力は認められないという。

★.国防総省によると、台湾海峡で武力衝突が発生した場合、
米海軍を防ぐために中国海軍には2つの欠陥が存在するという。  
①.まず、中国海軍は現在、世界でも最大規模の潜水艦隊を保有しているにも関わらず、有効な対潜作戦を実施する能力は持っていない。
②.次に、米国からみれば、解放軍には必要な情報をタイムリーに収集し、攻撃目標を定めて正確に破壊する能力が、今なお欠けている。
そのため、短期的に見れば、中国は台湾を軍事的にコントロール下に置く能力を持っていない。
そのため、解放軍は大陸部沿海における防御能力の増強に強い関心を示すことになるという。
中国海軍は海外で海賊と対峙する任務や、戦闘を伴わない撤退を実施することはできるが、中国には1000マイルを上回る海岸線があり、中国海軍が米国海軍と対抗することは不可能という。
米国は2000年ごろから、NATO諸国軍や日本軍との情報共有のためのネットワーク構築に力を入れてきた。
同盟関係や信頼関係により、アクセスできる情報にランクをつけているとされる。
中国軍に対しては、アクセスを一部許可していたとしても、例えばソマリア沖の海賊対策などの個別のケースに限り、「現場でどうしても必要な一部情報」のみの共有を認めていると考えてよい。

中国と米国の利害の対立する軍事的事態が生じた場合には、行動のために必要な情報の入手で、米軍などと中国軍では圧倒的な差が生じることになる。
米国防総省が中国海軍の二大欠陥として「必要な情報をタイムリーに収集」する能力の欠如を挙げたのも、自国が主導して構築してきた国際的な軍事関連情報ネットワークについての自信のあらわれと考えられる。
逆に言えば、中国が軍事面での米国との「情報格差」を痛感しているのは確実で、
さまざまな「対抗方法」を画策していると考えるのが自然だ。



JB Press 2014.02.20(木)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39972

オーストラリアにも脅威を与えた
中国海軍の遠洋パトロール強化スピードは予想以上と米国が警告


●戦闘即応戦隊パトロール航路

先週の建国記念日(2月11日)、中国海軍南海艦隊戦闘即応戦隊(以下、「戦闘即応戦隊」)が23日間のパトロールを終えて湛江海軍基地に帰還した(本コラム「南シナ海支配へ拍車をかける中国」参照)。
戦闘即応戦隊は、輸送揚陸艦「長白山」、“イージス”駆逐艦「海口」、ミサイル駆逐艦「武漢」という3隻の軍艦で構成されていた。

オーストラリアの公共放送局であるオーストラリア放送協会(ABC)は、このおよそ8000海里にわたる戦闘即応戦隊の航海を、オーストラリアの安全保障にとって重大な意味を持つニュースとして放映した。

そのリポートは、オーストラリアの安全保障専門家、ローリー・メドカフ氏(Lowy Institute for International Policy)の次のような警告を紹介していた。

「オーストラリアの“北の玄関口”周辺海域で、中国が2万トン級の新鋭揚陸艦とイージスシステム搭載艦を含んだ新鋭駆逐艦による示威的航海を実施したのは、オーストラリアのインド洋での海上航路帯に対して中国海軍が直接影響力を行使できることを初めて具体的行動で示してみせた、極めて意義深い出来事である」

■戦闘即応戦隊の航路

オーストラリアが戦闘即応戦隊の遠洋訓練航海に神経をとがらせたのは、この戦隊の航路に大きな理由がある。

広東省の湛江海軍基地を発進した3隻の軍艦は、南シナ海の西沙諸島(中国がベトナムとの武力衝突によって占領し、ベトナムと台湾も領有権を主張している)海域、フィリピン軍守備隊が駐屯する馬歓島(フィリピン、中国、ベトナム、台湾が領有権を主張)周辺海域を含む南沙諸島海域、それに南沙諸島最南端に近くマレーシアの排他的経済水域内に位置するジェームス暗礁(曾母暗沙:中国共産党政府は中国領最南端の土地と主張している)周辺海域などをパトロールしながら南下して、1月29日、スンダ海峡を抜けてインド洋に進出した。

そして戦隊はインド洋からロンボク海峡を経てジャワ海に至り、マカッサル海峡を通過して、2月3日、セレベス海から西太平洋に抜けた。

西太平洋でも各種訓練を実施しつつ北上し、フィリピンと台湾の間のバシー海峡を抜けて湛江海軍基地へと帰還した。
この遠洋パトロールでは、上陸戦訓練、対空訓練、対ミサイル訓練、対潜水艦戦訓練なども実施された。

戦闘即応戦隊がパトロールした航路は、領有権紛争中の西沙諸島周辺海域や南沙諸島周辺海域はともかくも、それ以外は全くの公海上であり何ら問題はない。
だが、オーストラリアにとっては、これまで中国海軍がスンダ海峡やロンボク海峡といったインドネシアの島嶼列島線を越えてオーストラリア北部沿海域まで進出してきた前例がなかったため、中国海軍の意図を神経過敏に類推せざるを得なかったのである。

■中国海軍は予想以上のスピードで強化されている

ちょうど戦闘即応戦隊が東南アジア海域をパトロールしていた時期に、アメリカでは、「米中経済安全保障検討委員会」が中国海軍に関する分析の報告をアメリカ海軍情報局に求めて、海軍情報局幹部やアナリストに対する諮問が実施されていた。

アメリカ海軍情報局は「中国海軍はアメリカ側の分析に基づく予想を超えたスピードで強化されている」との警告を発した。

海軍情報局が委員会に提出し公開された報告書には、中国海軍は現在
★.77隻の主要水上戦闘艦、
★.60隻以上の潜水艦、
★.55隻の水陸両用戦用艦艇それに
★.85隻のミサイル搭載小型艇
を運用しているだけでなく、
2013年にはおよそ50隻の大小艦艇が起工、進水、あるいは就役した
ことが記されていた。
そして2014年にもほぼ同数のペースで軍艦が建造され続ける、と中国海軍の艦艇増産スピードの早さが強調されている。

報告書が警告しているのは数量だけではない。
中国海軍の軍艦や搭載兵器、それにコミュニケーションシステムやセンサー類の質も飛躍的に向上している点にも注意を喚起している。

例えば「旅洋-3」ミサイル駆逐艦のミサイル垂直発射装置からは、最新テクノロジーが凝縮された対艦巡航ミサイル(ASCM)が発射可能であり、対地攻撃巡航ミサイル(LACM)も搭載されていると考えられる。こ
れらの新鋭ミサイルを装備している旅洋-3をはじめとする新鋭駆逐艦は完璧な超水平線攻撃能力を保持した多機能戦闘艦であり、2020年までには少なくとも中国海軍艦艇の85%以上が、この程度の“先進的”能力を保持するものと考えられる。

水上戦闘艦以上に、米海軍や同盟国海軍それにアメリカ全体にとっての脅威は、
 中国海軍潜水艦艦隊である。

2020年までには中国海軍の通常動力潜水艦の75%以上、そして原子力潜水艦の全てが“先進的”な潜水艦へと入れ替えられる。
例えば、通常動力潜水艦は極めて静粛性が高いだけでなくAIPシステムが搭載されるものが主流となる。
そして、それらの通常動力攻撃潜水艦には対艦攻撃用巡航ミサイルを装備することになる。
また、「095型」攻撃原子力潜水艦には対地攻撃用長距離巡航ミサイルが搭載されて、近い将来運用が開始される。

海軍に対する脅威だけではない。
中国海軍「094型」戦略原潜には、2014年中には新型核弾頭搭載長距離弾道ミサイル「JL-2」が搭載され、本格的な核抑止パトロールが開始される。
JL-2の最大射程距離は4000海里(およそ7400キロメートル)と考えられており、中国海軍にとって安全海域を潜航中の094型戦略原潜から、ホノルルやサンディエゴの海軍基地を壊滅させたり、ハワイ、アラスカそれにアメリカ西海岸に核報復攻撃を敢行することが可能になる。

米中経済安全保障検討委員会に対して、このような中国海軍の脅威に関する報告がなされている最中に、戦闘即応戦隊が水陸両用戦訓練というオマケまで付けながら南シナ海・インド洋・西太平洋をパトロールしたのである。
アメリカ海軍情報局はもちろんのこと、アメリカ安全保障当局の対中警戒心が否が応にも高まったのは当然のことと言えよう。

■戦闘即応戦隊が発する日本へのメッセージとは

この戦闘即応戦隊の航路は、南シナ海周辺諸国やオーストラリア、そしてアメリカ海軍だけではなく、日本に対しても脅迫的メッセージであったと考えられる。

中東方面や東南アジアから原油や天然ガスなどのエネルギー資源を日本にもたらす、まさに“日本の生命線”とも言える航路帯が縦貫している南シナ海が、中国海軍の妨害といった事態によって航行できなくなってしまった場合には、日本の生命線は「インド洋~マラッカ海峡~南シナ海」経由ではなく、「インド洋~ロンボク海峡(あるいはスンダ海峡)~マカッサル海峡~西太平洋」経由に変更せざるを得なくなる。

このような“迂回生命線”への航路変更だけでも日本にとっての経済的打撃は計り知れないものがある(およそ1000海里の距離と、少なくとも3日間の時間が加算されるため、30万トン級大型タンカー1隻あたり燃料代だけでおよそ2500万~3000万円の経費増となる。日本は毎日およそ2.5隻の大型タンカーが運搬する量の原油を消費している)。

戦闘即応戦隊がパトロールしたのは、まさに日本の“迂回生命線”そのものであり、「南シナ海だけでなくロンボク海峡やマカッサル海峡といえども、有事の際には中国海軍の目が光っている(そのような場合には駆逐艦よりは攻撃原潜が進出することになるであろうが)ことを忘れるな」というメッセージを日本に対しても発していることを、日本もオーストラリア同様に重く受け止めねばならない。

北村 淳 Jun Kitamura
戦争平和社会学者。東京生まれ。東京学芸大学教育学部卒業。警視庁公安部勤務後、平成元年に北米に渡る。ハワイ大学ならびにブリティッシュ・コロンビア大学で助手・講師等を務め、戦争発生メカニズムの研究によってブリティッシュ・コロンビア大学でPh.D.(政治社会学博士)取得。専攻は戦争&平和社会学・海軍戦略論。米シンクタンクで海軍アドバイザー等を務める。現在サン・ディエゴ在住。著書に『アメリカ海兵隊のドクトリン』(芙蓉書房)、『米軍の見た自衛隊の実力』(宝島社)、『写真で見るトモダチ作戦』(並木書房)、『海兵隊とオスプレイ』(並木書房)、『尖閣を守れない自衛隊』(宝島社)等がある。





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