2014年2月1日土曜日

「成都モデル」都市農村一体化改革:そしてバブル現象、共産党を直撃?

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●成都郊外のマンション建設現場(筆者撮影:川島 博之)


レコードチャイナ 配信日時:2014年2月1日 15時17分
http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=82670&type=0

中国の未来を決める都市農村一体化改革、
農民の民主的意志決定を引き出す「成都モデル」

 中国の都市化で欠かせないテーマは、
 「統籌城郷」(都市農村一体化)
です。
 この方針は2003年の第16期三中全会で打ち出されました。
 都市と農村の一体化の具体的内容は、
 農民の都市住民化、
 農地の都市建設用地化
です。

 中国の都市化では、「人の都市化」という戸籍制度を代表とする
①.二元制度の制約の打破が1つの焦点です。
②.もう1つの焦点は耕地の保護という制約のもとでの都市化です。 
 土地供給に制限のある中でどのように都市化を行うのか、中国の事例は他の途上国の都市化を考える上で、非常に参考になります。

■18億ムー(約1億2000万ヘクタール)の耕地を保護する

 中国の土地管理は、2002年の土地請負法、2004年の憲法、土地管理法の3つの法律によって行われています。
 基本的内容は、
①.都市の土地は国家所有、
②.農村の土地(宅地も含めて)は農民集団所有
という二元制度になっているということです。

 農村の農地は、土地経営請負制度によって農村の集団や個人での使用が認められています。
 そして農民のこの土地使用権は譲渡可能になっていますが、非農業建設用地としての利用は制限されています。
 都市化に必要なマンションや住宅の建設用地は国家所有に変更しないと利用できないことになっています。

 なぜこのような複雑な制度になっているのでしょう。
 それは農業を保護するために、18億ムーの耕地を保存するという重要な国策があるからです。
 農業の発展は経済発展にとって土台です。
 農業の生産性が向上しないまま工業化が行われると、工業化原料を供給する農業部門製品の価格が上昇し、工業の利潤を減少させ、再投資を不可能にします(これをリカードの罠という)。
 農業と工業のバランスとれた発展が持続的成長に不可欠なのです。
 そのため、工業化による土地の乱開発を抑えるため、農地の所有権を農村集団所有という形にしています(これを農村の管理という側面から支援しているのが戸籍制度)。

■都市化による土地需給問題

 中国の耕地面積は減ってきています。
★.19.88億ムー(約1億3260万ヘクタール、1985年)から
★.19.14億ムー(約1億2770万ヘクタール、2001年)へ、
★.それが2005年には18.31億ムー(約1億2210万ヘクタール)、
★.2010年には18.26億ムー(約1億2180万ヘクタール)
と2000年代前半に大きく減少しました。
 耕地はすでに18億ムーというレッドライン(紅線、死守すべき一線)すれすれという状態になっています。

 それに対して、都市建設用地の需要は高まっています。
 都市建設用地面積は2001年から2010年までの10年間で1億4081万平方キロメートル(約2100万ムー)の増大です。
 これは過去最高の数字でした。

 国土資源部が2011年に通達した建設用地の指標は670万ムー(約44万7000ヘクタール)です。
 ところが全国31省の用地需要の合計は1616万ムー(約107万8000ヘクタール)でした。
 つまり国家が用意する建設用地の供給は潜在需要の40%しかないということになります。

 葉裕民(「中国城郷建設用地流轉的原因与効果」アジア経済研究所研究会配布資料、2013年11月25日)の推計によると、2030年までに都市化水準の目標が70%、総人口が15億人とすれば、都市人口は10.5億人になります。
 2010年の年人口が6.6億人ですので、都市人口はこれから3.9億人増加させる計算です。

 都市の面積/人口が1平方キロメートル/万人とすると,単純に3.9万平方kmの都市建設用地が必要となります。
 2010年の耕地面積は18.2億ムーです。
 つまり18億ムーのレッドラインまであと0.2億ムー(約1.33万平方キロメートル)しか残っていません。
 つまり今後都市化をする上で、2.57万平方キロメートルの土地が足らないということになります。

■新農村建設

 2006年に国土資源部は、都市農村建設用地増減リンク制度を試行し始めます。
 これは農村の土地を土地建設用地にした場合、どこか別の場所に農地を用意して、建設用地の増加と農地の減少のバランスをとるというものです。

 足らない都市建設用地をどのようにかき集め、農業用地をどのように維持するのでしょうか?
 その答えが新農村建設にあります。
 簡単に言ってしまうと、城鎮(村)レベルで進められる新農村建設とは、農民を新しく開発したマンションという一部の地域に移住させ、分散していた農民の宅地や行政機関を耕地に転換していくという政策です。

 都市化率70%に向けて、不足する2.57平方キロメートルの土地は新農村建設によって生み出す必要があります。
 農民1人当たりの建設用地が200平方メートルとして計算すると、1.28億人を新農村建設で移住させる必要があります。
 中国の行政村1つあたりの人口は900人ですので、約14万村(村庄)にあたる広さになります。
 中国には現在69.2万の行政村がありますので、約1/5が新農村建設を積極的に進めないといけないことになります。
 別の言い方をすると、約1/5の行政村が都市化で消える(小都市に生まれ変わる)運命にあるということです(推計は同じく、葉2013)。

■成都の事例

 2007年に成都は都市農村一体化総合改革試験区に指定されました。
 成都は、土地増減リンク、都市化を市場経済化、民主化したやり方で比較的成功した事例を提供しています(Ye,Yumin and Richard LeGates,Coordinating Urban and Rural Development in China:Learning from Chengdu,Edward Elgar,2013)。

 成都の土地増減リンク、都市農村一体化の手順は、農村で土地の財産権を確定し、それを農村財産権取引市場で売買する、というものです。

 新農村建設にあたっても、農民が財産権をどうするかは農民自身に委ねられています。
 新しくできた街の中心部のマンションに移転することを希望する場合、財産権を取引市場で販売し、現金に変えて移動することが可能です。
 農業に残る場合、財産権を販売せずむしろ他の農民が売る財産権を購入して、農業の大規模化を行うことも可能です。

 成都の財産権売買と重慶の地票取引の違いは、財産権(重慶の場合は開発権)取引にあたっては、農民自らが取引市場に参加できるかです。
 成都の場合、小規模な土地であっても農民が財産権売買を行うことができます。
 重慶の場合は、土地区画の整理、販売、購入、すべてが国有企業によって行われ、農民が参画する余地が限られています。
 したがって、重慶には土地の収容、販売にあたって強制的、強権的になされる可能性が残っています。
 成都の場合は、農民の意思決定が尊重される形となります。

 柳街鎮では、農民の意見を聞きながら、鎮の中心部を再開発することになりました。
 企業が9800万元(約16億6000万円)を投資して、土地整理と新型社区の建設に乗り出します。
 これにより約208ムー(約13.9ヘクタール)の集団建設用地指標を節約することができました。
 その節約した指標分だけ都市建設用地が生まれます。
 鎮中心部の開発が進み、周辺部は現代農業用地として開発されました。

■成都の事例は全国に展開可能か?

 2013年11月に開催された第18期三中全会では、農村の財産権取引を進めると明記されました。
 成都の事例を全国に広げる形です。
 葉裕民によれば、土地増減リンクと都市農村一体化で重要なのは基層レベルの民主的意思決定だそうです。

 他地域では、国土資源部の指標にしたがって、土地を強制収容し、都市建設を進める基層政府が多く、これが土地問題と都市化を複雑にしています。
 直接の原因は基層政府幹部の成績評価が
(1).耕地面積は減少させない、
(2).建設用地は増加させない、
という二項目が入っているために、政府自らが土地増減リンクと都市農村一体化を進めるというインセンティブになっています。
 農民の生活要求を満たすことを考えずに都市化を進めてしまう結果になります。

 結局、中国の都市化は限られた空間を効率的に利用すること(土地増減リンク)、それにあたっては市場経済化による農民の民主的な意思決定の尊重が必要ということになりそうです。

◆筆者プロフィール:岡本信広(おかもと・のぶひろ)
大東文化大学国際関係学部教授。1967年徳島県生まれ。著書に『中国-奇跡的発展の「原則」』アジア経済研究所、『中国の地域経済-空間構造と相互依存』日本評論社がある。
』 


JB Press 2014.02.10(月)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39877

地方でも進行する中国の不動産バブル、
都市部中産階級の怒りに火がつく日

 成都は四川省の省都だ。
 四川省は中国の内陸部に位置しパンダの生息地として知られる。
 成都の周辺には平野が広がり気候も温暖、内陸部にしては住みやすいと言われている。

 ただ、内陸部に位置することは経済発展において有利な条件ではない。
 2012年の四川省の1人当たり生産額は2万9608元であり、これは北京の8万7475元、上海の8万5373元の約3割にとどまる。

 四川省の人口は8000万人だが、近年、成都周辺への人口集中が続いている。
 2010年のセンサスによると成都の人口は1400万人、2000年に比べて約300万人も増加している。

■家賃1万元の郊外マンションを誰が借りるのか?

 その成都でマンション建設ブームが起きている。
 中心部から自動車で、交通事情にもよるが30分以上かかる郊外に、いくつもの高層マンションが建設中だ。

 建設現場のそばに瀟洒なショールームがあるが、そこは日本のマンション販売所と変わらない雰囲気だ。
 大学を出ていると思われるスーツを着こなした女性の営業担当が、熱心に物件の紹介を行っていた。

 驚くべきはその価格である。
 専有面積80平方メートルほどのマンションの価格が200万元にもなっている。
 1元を17円として3400万円。
 東京郊外のマンションンの価格となんら変わらない。

 この建設中のマンションの近くに地下鉄の駅ができることになっている。
 だから高いのだという。
 しかし、中心部から自動車で30分以上かかる場所であり便利とは言えない。
 そのような場所に建設中のマンションが高値で売られている。

 日本円で3400万円と聞いて、それほど高くないと思われる方もいるだろう。
 しかし、四川省の1人当たりの生産額は、先ほど書いたように2万9608元である。円に換算して50万円ほど。
 日本の1人当たりのGDPは370万円だから、その7分の1以下である。

 成都に住む普通の人が3400万円もするマンションを買えるとは思えない。
 女性販売員はマンションを貸せば月に1万元程度になると言ったが、案内してくれた通訳は、不便な場所なので5000元でも借り手を探すのは難しいだろうと言っていた。

 成都の商店などで働く女性従業員の月収はよくても3000元程度である。
 日本と同様に年に2回、2カ月程度のボーナスが出るが、それでも年収は4万8000元にしかならない。
 共働きが普通の中国でも、世帯年収は10万元である。
 よく言われることだが、購入できる住宅の価格は年収の3倍だ。
 そうすると、普通の人は30万元の住宅しか買えないことになる。

 それなのに200万元もするマンションが大量に造られて、販売されている。
 それも北京や上海などではない。
 内陸部の成都においてである。
 中国の不動産バブルは地方都市にまで及んでいる。

■投資用マンションの購入は老後の蓄えのため

 住宅を買っている人はいくつもの住宅を持っている。
 現在、中産階級は、住んでいる住宅の他に少なくとも1軒のマンションを投資用として保有している。
 ここで「中産階級」とは、公務員や国営企業に勤めている人々、医者、大学教授などの専門職、また中小企業や商店の経営者などとしてよいだろう。

 その人数を見積もることは難しいが、中国の人口の半分が都市に住み、都市に住む上位4分の1が中産階級であるとすると、その人口は1億8000万人にもなる。
 中国の平均世帯人数は約3人だから、6000万世帯が中産階級である。

 もし、全ての中産階級が1戸の住宅を投資用に持っているとすると、その数は6000万戸にもなる。
 1戸の価格を100万元とすると、その総額は60兆元(1020兆円)になる。

 6000万戸もの投資用マンションが空き部屋になっているとの推定は少々誇大にも思えるが、現在、共産党幹部などではないごく普通の人でも投資用マンションを保有するようになっていることを考えると、6000万戸という数字はそれほど大げさではないと思う。

 なぜ、それほど投資用のマンションを保有したがるのであろうか。

 中国人に聞くと、口を揃えて老後が心配だからと言う。
 中国にも年金制度はあるが、高級公務員や国営企業に勤める一部の特権的な人々を除けば、それほど高額ではない。
 そして、老後の医療費も心配だと言う。
 中国の医療保険制度の整備は遅れており、高度な医療は保険の対象外になっている。
 ちょっとした手術をするのにも莫大なお金が必要である。

 規制の下で銀行預金の金利は3.5%だ。
 物価の上昇率を下回っている。
 そのために多くの人々は、老後の資金を蓄えるつもりで投資用のマンションを購入している。
 固定資産税がないことも、マンション投資に拍車をかけている。
 それが、実態を離れたマンションブームを呼び、不動産バブルを作り出してしまった。

■マンション価格の下落が中産階級を直撃

 都市部のマンションは庶民が到底買えないような価格にまで上昇してしまった。
 そうである以上は、いつかはバブルが崩壊して、価格は実需と均衡する水準にまで下落しよう

 しかし、そうなれば中産階級が老後の蓄えと思っていた資金が大幅に目減りする。
 このことはバブル崩壊が中国社会に与える影響の中で最大のものになると思う。

 都市部の中産階級は奇跡の成長の受益者である。
 天安門事件以降の言論弾圧などについては不満があるが、それでも共産党の統治によって投資用のマンションを購入できるほど豊かになった。
 だから共産党を支持している。
 しかし、持っているマンションが暴落して価格が現在の半値から3分の1になったら、そのような人々はどのような行動に出るのだろうか。

 不動産バブルの崩壊は中国共産党が都市に住む中産階級からの支持を失うことに直結する。
 そして、それは共産党統治の終焉を意味する。
 それが分かっているから、共産党はバブルを崩壊させることができない。
 しかし、バブル崩壊を防ぐために金融を操作すればするほど、それが新たなバブルを作り出してしまう。

 ここ数年、中国はそのようなことを繰り返してきた。
 そしてバブルはどんどん膨らんだ。今も膨らみ続けている。
 中国共産党は、今、不動産バブルという巨大な蟻地獄と戦っている。
 だが、ソフトランディングは難しいだろう。

川島 博之 Hiroyuki Kawashima
東京大学大学院農学生命科学研究科准教授。1953年生まれ。77年東京水産大学卒業、83年東京大学大学院工学系研究科博士課程単位取得のうえ退学(工学博士)。東京大学生産技術研究所助手、農林水産省農業環境技術研究所主任研究官、ロンドン大学客員研究員などを経て、現職。主な著書に『農民国家 中国の限界』『「食糧危機」をあおってはいけない』『「食糧自給率」の罠』など



サーチナニュース 2014-02-10 09:30
http://news.searchina.net/id/1523564

仕事をください! 四川省成都で出稼ぎ希望者の就活始まる



 中国では6日に春節(旧正月)連休が終わり、出稼ぎを希望する人々の求職活動が本格化した。
   休み明けの7日、四川省成都市では出稼ぎ希望の人々が紙に自分ができる仕事などを書き、雇用希望者が現れるのを待っていた。
 多くの人が警備員や調理師、家政婦などの仕事を求めている。



レコードチャイナ 配信日時:2014年2月12日 5時22分
http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=82974&type=0

なぜ中国の都市化・戸籍改革は進まないのか?
都市化のトラウマ」の呪縛


●中国の都市化では、農村と都市の二重構造を打破するというのが、もっとも大きな課題です。日本では人の移動が自由であったために、都市化における人の移動の制限を加えてきたことはありませんでした。写真は写真は福建省福州市。

 中国の都市化では、農村と都市の二重構造を打破するというのが、もっとも大きな課題です。
 日本では人の移動が自由であったために、都市化における人の移動の制限を加えてきたことはありませんでした。
 しかし、中国では戸籍制度を基本として人の自由な移動に制限が存在します。

 中国内外から改善を求める声が高まっていますが、農村と都市の二重構造、人の移動の制限の改革はなかなか進みません。
 それはなぜなのか
 当局が改革に慎重なのは、過去の失敗の記憶、都市化のトラウマとジレンマがあるからです。

■第1次五カ年計画における都市化とその問題

 新中国の成立前まで、共産党は農村を中心とする革命を行ってきました。
 共産党の革命重点が農村から都市に転換したのは、1949年の中共第7期二中総会(中央委員会第二回総会)による毛沢東報告です(小林1974)。
 毛沢東が
 「都市の生産を回復し発展させ、消費的な都市を生産的な都市にかえたとき、人民の権利は、初めて強固なものになる」
と報告しました。
 これをきっかけに「消費都市から生産都市へ」の基本的な流れができます(小島1978)。

 そこで、第一次五カ年計画では重工業化と都市化の方針で経済建設が開始されました。

 解放当時の都市建設の目標は都市公共施設の修復・建設と環境衛生(上下水道、ごみ処理など)の改善でした(以下、主に越沢1978)。
 とくに大きな問題は、住宅でした。
 日中戦争時大量の農民が離村し都市へ流入してスラムを形成していたからです。
 また解放後多くの農民が都市に流入するとともに(都市人口増加の2/3は農村からの流入)、家族を呼び寄せるため、一人当たりの住宅面積は減少、住む場所のない労働者も増加していました。
 (都市に行けば住宅が分配されるという期待も農民が都市に移動したインセンティブになったらしい。)

 重工業化にともなって、都市近郊の農地が収用されました。
 肥沃な土地が荒地と化し、農業生産に支障をもたらすとともに、さらに農民の転業問題を引き起こしました。
 1956年国務院は土地収用に関する浪費の防止について通達も出しています。

 工業化を支える商品化食糧の供給にも問題が発生します。
 副食品(野菜、肉、卵など)の供給は不足しがちで、北京、上海、天津などの11都市の野菜の供給率は7-8割程度でした。
 野菜は長距離輸送に向かないため、近郊農業を発展させる必要がありますが、土地収用でそれもままならないという状況でした。

■大躍進期における都市化政策の転換

この住宅供給、土地収用、食糧供給の3つが都市化のネックとなり、大躍進期より都市化の方針に大きな転換がおきます。

★.第一の転換が工業分布の「大分散、小集中」です。
 大都市の発展を抑制し、中小都市の工業化に力を入れることとなりました。

★.第二の転換が農村人民公社の設立と農村工業化政策です。
 1958年から急速に人民公社化が進められ、農民の集団化と農村における工業化が進められることとなりました。

★.l第三の転換が下放政策です。
 都市技術者や青年を農村に下放するとういうことです。

 実際の人口移動をみてみると、第1次五カ年計画が終了する1957年まで毎年200万人から300万人程度の労働が農村から都市に移動しました。
 その後大躍進期(1958~1961)に地方各都市で工業化が進められ、2000万人が地方都市に移動しました。
 でも増大する人口が都市で抱えきれずに1961年にほぼ同数の労働が農村に帰されました。
 その後文革期を通じて青少年の農村下放政策が制度化され、1080万人が農村に送られたと見られます(以上、数値は小島1978、pp.19-21)。

 この第1次五カ年計画では、増加した人口を都市で解決できなかったのです。
 これが中国の「都市化のトラウマ」になっています。

■現在の都市化と過去との類似

 このように過去の都市化を振り返ってみると、現在の都市化政策と似た部分が非常に多くあります。
 共通点にもとづいて現在の都市化政策の状況をみてみると
(1).都市化のための土地収用が行われていること。
(2).食料供給維持のため、18億ムー(約1億2000万ヘクタール)という耕地保護の方針を打ち出していること。
(3).「新農村建設」という名目で農村の都市化が進められていること。(ついでに言えば大学生「村官」、大学生を数年間村の幹部として現場を経験させることが実施されている。)
(4).大都市の抑制と中小都市の発展を目指していること。
です。

 大都市広州では、2020年の人口総量規制は1500万人(定住人口)ですが、2012年ですでに1600万人になっています。
★.一日に1.4万トンのごみ処理を行い、465万トンの汚水を処理する必要があります。
★.副食品に至っては、一日に1.5万頭の豚を屠殺しないと豚肉の供給が間に合わなし、1500万斤(1斤500g程度)の野菜を供給しないと市場需要に追いつかないとされます(『羊城日報』2014年1月19日)。

 当然、北京、上海などの大都市でも同じように都市環境維持の公共設備の拡大は必要ですし、必要な安定した副食品の確保は重要です。
 都市の公共サービスの提供と食糧の確保は重要な課題になっています。

■都市化のジレンマ

 先にも述べたように中国には都市化のトラウマがあります。
 それは、第1次五カ年計画期において、増加する人口を都市で吸収しきれなかったというものです。
 都市における人口増加、そして増加した人口に住宅や社会保障を提供するというのは、財政の問題もあって非常に難しい問題です。

 都市が拡大することによって農地が都市用地に転換されていくと、農業生産の減少につながります。
 中国の膨大な人口を養うには最低限の耕地確保は必要です。
 都市の容量と必要な農業の確保、このバランスの中で人口をどのように都市、農村に配分するか、これが中国政府の政策担当者が抱える問題であり、中国都市化のジレンマです。

 増加する人口が都市部に流入すると農業や公共サービスに影響を与えます。
 だからといって人口を農村に貼り付けておくことは、サービス産業化、消費型産業のさらなる経済発展の足かせになってしまいます。

 以上のように、過去の都市化で失敗したトラウマを抱えて中国政府は、人口の都市農村配分という問題に直面しています。
 そのジレンマは過去から何も変わっていません。

 都市化を過剰人口の都市農村配分という角度からみて、どのような有効な政策を打ち出すことが可能なのか。
 まもなく発表される予定の『国家新型都市化計画』が楽しみです。

<参考文献>
小林弘二(1974)『中国革命と都市の解放:新中国初期の政治過程』有斐閣
小島麗逸(1978)「社会主義建設と都市化」(小島麗逸編『中国の都市化と農村建設』龍渓書舎)
越沢明(1978)「都市政策の変遷と都市計画」(小島麗逸編『中国の都市化と農村建設』龍渓書舎)

◆筆者プロフィール:岡本信広(おかもと・のぶひろ)
大東文化大学国際関係学部教授。1967年徳島県生まれ。著書に『中国-奇跡的発展の「原則」』アジア経済研究所、『中国の地域経済-空間構造と相互依存』日本評論社がある。







【劣化する人心と国土】


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