2014年3月3日月曜日

人民元相場、安値誘導の思惑: 中国は思慮深い矢で通貨の「禿鷹」を射抜こうとしている

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2014.03.03(月)  Financial Times
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/40082

人民元相場、安値誘導の思惑
中国は思慮深い矢で通貨の「禿鷹」を射抜こうとしている
(2014年2月28日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)


●人民元の対ドル相場は2月に入り急落した〔AFPBB News〕
人民元、対ドル基準値6.7896元に 最高値更新

 中国政府は2月最終週、人民元を2005年以来最大の下落に誘導する際、諺にある通り、
 「1本の矢で2羽の鷲を射抜く」戦略
を用いていた。

 1羽目の鷲とは、中国当局者の警告にもかかわらず、米ドルに対する人民元の上昇を一方向だけの賭けと見なしてきた外国の投機筋のこと
 2羽目の鷲とは、夢から現実に呼び戻されるのを拒んでいる国内の影の金融業者のことだ。

 中国政府が獲物として狙う鷲は、どちらも死んでもいなければ致命傷を負ったわけでもないが、予想外の人民元の下落は多くの羽を逆立てたことだろう。
 さらに重要なことに、当局の対策は、非常に変動の激しい金融システム上のリスクを減らす戦いで、中国が新たな戦線を展開していることを知らせる警告でもある。

■シャドーバンキングの抑制策が裏目に

 人民元の安値誘導が、中国が金融リスクを管理する上でどのような助けになるのかを明らかにするためには、多少探偵のような推理が必要だ。
 というのも、ここには、公式、非公式を問わず、ほとんどデータがない金融取引の巨大な未知の領域が関わってくるからだ。

 とはいえ、中国政府の政策をますます方向づけているのは、この領域での取引(国内の影の金融や国境をまたぐ非正規の資本移動を含む)だ。

 この話は、中国人民銀行が影の金融を服従させることに何度も失敗してきたというところから始まる。
 2012年12月の文書463の公表以来、当局は、高金利の信託ローンが地方政府の借り手の間でデフォルト(債務不履行)を引き起さないようにすることを主な目的として、影の金融に対する圧力を強めてきた。

 だが、公式統計は、そうした努力がまだ実を結んでいないことを示している。信託ローンは1月に3965億元(647億ドル)に達し、前年同月の水準からほぼ2倍に増えた。

 だが、こうした失敗よりもっと深刻なのは、人民銀行の政策が裏目に出ている証拠だ。
 本紙(英フィナンシャル・タイムズ)の調査サービス、チャイナ・コンフィデンシャルの調査によると、
 影の金融資産(魅力的なリターンを提供する商品)を一掃しようとする中央銀行の圧力をすり抜けて、市中銀行は、代わりに低利回りの事業債(国有企業が発行する債券)を売却し、企業と地方政府の資金調達コストを引き上げている。

 その結果、「実体」経済への信用の供給が圧迫されているが、影の金融部門は、名目上は「閉じられている」中国の資本勘定の多数の穴を通して勢いよく流入する資本によって栄養分を与えられている。

■抜け穴を利用したおいしい取引

 中国東部、寧波の影の銀行家は最近、こうした取引の魅力を次のように表現した。
 「海外では年間1%程度の金利で簡単に資金が借りられる。
 それから、その資金を人民元に変えて本土に持ち込むのだ」。
 自らの事業の違法性のために匿名を希望するこの銀行家はこう話していた。

 「それを信託に貸せば10~12%の利息が得られるし、
 地下銀行に預ければ20%程度の利息を得られる
 おまけに、外国で借りた資金を返済する必要が出てくる時までに、人民元が上昇すれば、その分も儲かる」

 国境をまたぐこのようなキャリートレードが最近盛んになっていることを示す1つの兆候は、輸出代金の水増しが増えていることを示す証拠だ。
 輸出代金の水増しは資金を密かに本土に持ち込むのに使われる一般的な方法で、チャイナ・コンフィデンシャルが1月に行った輸出業者に関する調査では、回答者の44%がこうした代金水増しが増加傾向にあると思っていることが判明した。

 こうした圧力に悩まされてきた人民銀行が矢を放ちたがったのは驚くに当たらない。
 人民銀行が望んでいるのは、人民元は上がることもあれば下がることもあるという意識を投機筋の意識に植えつけることで、本土の影の金融市場で手に入る非常に大きなリターンに引かれて投機的な資本が殺到しないようにすることだ。

 その際、中国政府はいつものように、今年これまでに人民元が1.2%下落したように、漸進的な転換を期待している。
 違法な資本の流れを完全に止めようとすれば、中国政府が避けたいと思っている金融のデフォルトの波そのものを引き起こしてしまうかもしれないからだ。

 そのため、市場の反応を生み出すための、為替レートの柔軟性を利用した漸進的なアプローチが、今のところ人民銀行の目的に合っているように見える。

By James Kynge in London
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